+ Beginners 4 +  戦争時期

  

 

 

入隊初年度からの特殊部隊入りを目指してきた。
父や兄が図書館関係者だというお膳立てに胡座をかくことなく、知識や鍛錬についても人一倍努力をして自らの実力にしてきた。


『お前は笠原を一体どうしたいんだ?』

『手塚は笠原さんから得るものがあるとおもうよ』


尊敬する二人の上官に言われた言葉。
俺からみれば特殊部隊での唯一の同期同僚となった笠原の粗暴な行動の方があり得なかった。
女であるという事を武器する奴ではなかった。
女であることにハンデに思わず、できない事はできるようになろうと、人一倍努力する奴だった。

それは認める。


だが、笠原の存在はまだ消化しきれない、こいつが俺と同じ立ち位置にいる、ということが。
そして俺はお前から何かを得なければならないんだ。
そんな焦りから、早々に笠原の予定を取り付けた。といっても、あいつの意見も聞かずに一方的に決めた物だったが。


そういえばたいした目的もなく、他人と出かけるなんていつ以来か?
高校時代は、学校帰りに同級生と普通にブラブラ寄り道したり、休日にも出かけたりすることが多少はあった。
大学に入ってからは、ゼミや研究会の仲間と付き合い程度の事はあったか...

その中に数人、個人的な付き合いを持つ奴もいた。
そういえば、そいつらとでさえ、図書隊入隊以来会ってない。


教育期間は同期で一緒に行動するため、一斉公休前などに、飲みに行くこともあった。
逆言えばその程度の付き合いの奴しかいない。
寮では4人部屋だが、それでも、たまに部屋飲みと称して語るかどうか位だ。
それぞれ缶ビールを片手に自由に過ごしていても、正直自分から積極的に話しに入って行くことは殆どない。


そんな風に思い起こせば、郁との関係はどうだ?


「付き合わないか?」
と告白めいた事を自分から言ったが、好きだという、恋愛感情から言ったわけではない。


特殊部隊で変則的な就業時間もあるということや、公休自体が一般人と同じく休みになる可能性が低いこともあり、
手塚も郁も、そうそう用事があるわけでもなく、同じ公休日を取る=ぶらっと出かけて一緒に過ごす、という事を何度か行った。


郁と出かけるのは、思いの外苦痛じゃなかった。
楽しいか楽しくないか、といえば、たぶん楽しいのだろう。いや、むしろおもしろい、と言うべきか。


何が目的でもなく、普通に過ごせてる。自分の中では、認められない、認めたくない奴だったのに。

 


◆◆◆

 




業務中のバディは、まだまだ自分たちが新人だということもあり、上官のどちらかと新人、という組み合わせがほとんどだったので、郁とやりとりをすることは意外と少なかった。
同じ班なので公休は一緒だ。そして、なんとなくお互いに予定が無い日は、連れだってブラッとしていた。


デートなのか、訊かれればデートなのだろう。


だが、郁が行きたいというところは別にデートコースというよりは、日常の延長に近い...。
確かに一度デートらしく映画を観に行った。
あいつが選んだのは、バリバリのハリウッドアクション映画の2作目だった。まあ、外れることは無い。

飯を食って、武蔵野に戻ってきたら、普通にスーパーに寄った。
俺は缶ビール半ダースやらつまみを、郁は甘そうな缶チューハイを数本とお菓子やらデザートをどっさりと。

「だってコンビニより安いんだもん」

コンビニスイーツはまた別もんのおいしさがあるんだけどね!と真剣な顔で訴えてきた。
わかったわかった、と思わず苦笑する。


二人で馬鹿話をしながら図書基地までの道を歩いた。
馬鹿だチョンだ、とまでは行かないが、漫才の掛け合いの様なやりとりが続く。
俺、こんなに喋る奴だったか?


その時、前を通りかかった書店から出てきたのは、二人の新人の班長である堂上だった。
驚いた拍子で職場モードになった。

「堂上教官っ、お疲れ様ですっ」
郁は条件反射で堂上に向かって敬礼した。

「アホか貴様、こんな街中で敬礼すんなっ」
「し、失礼しました」


あわてて郁はあげた手を下ろす。

「堂上教官は買い物ですか?」
当たり障りの無いことを堂上に訊いた。
うわっ、教官も帰寮なのかな?こんなところで、手塚を二人で出かけているときに遭遇するとは。

なんか、違った意味でドキドキする。悪いことでもしているみたいな?
「ああ、お前達も帰寮か?」

堂上はプライベートだというのに、いつもと同じ眉間に皺を寄せていた。

「はい」
律儀に手塚が応える。

「じゃあ教官も一緒に帰りましょう」
何を思ったか郁が素っとんきょんな事を言い始めた。


お前っ、腐ってもデートなんじゃないのかよ!!
他の男に一緒に帰ろうって言うか?しかも上官に。


「お前それ失礼だろう?」
「なんでよっ」

郁は解ってない。
あきれた様子で手塚は郁を待つことなく、先を歩こうとしていた。


郁はその背中をあわてて追い、手塚の右側に立とうとする。
その時、堂上の肩を掠めながら、車道へ大きくはみ出そうになった笠原の肩へと自転車ぶつかる、


と思った時には郁を肩から引っ張り、車道側から歩道側へ向かって少し抱きかかえるようにして、回避させた。


一瞬何が起こったのか、郁はわからなかったが、しばらくしてようやく自転車との接触が未遂で終わったことを理解した。


「すっ、すみませんっ教官!!」
「...お前女なんだからちゃんと歩道側を歩け」

その時、堂上の掌が郁の頭にポンっと乗った。


うっかり車道に寄りすぎた郁を守ってフォローした堂上。
その自然なやりとりに、手塚はわずかだがモヤッとしたものを感じた。


「...お、女だなんて...」
「女だろ、男とデートしてるんだからな」


そう捨て台詞を郁に浴びせてから二人の上官は自分たちを追い越し、訓練速度で先に帰寮していった。

 

 

 

 

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