+ Beginners 7 +  戦争時期

 

 

 

 

「あいつと...笠原と出かけることを、やめにしたんです」
久しぶりに呼ばれた上官の部屋飲みに参加しているときに、手塚は意を決して話し始めた。
あえて、「付き合い」という言葉を使わず、二人きりで出かけるのを、という意味にとれる言葉を選んだ。
「そうか」
堂上は一言だけ返した。

「一緒に過ごしてみて、あいつの良いところも、少しはわかった気がします......単純バカなのには変わり有りませんけど」
そういうと小牧が苦笑した。
「まあ、お互い納得づくなら、それでいいんじゃないの?」
急ぐ必要はなかったけどね、ま、早く白黒つけたかったのが、手塚らしいかな。
すべてお見通しな風で小牧がそう続けた。
「白黒、かどうかはわかりませんが、これは恋愛じゃない、って言い出したのはあいつです」
「へえぇ...笠原さんには、他に好きな人がいる、とか?」
これはおもしろい展開になってきた、と密かに小牧がほくそ笑む。
「.....憧れている人を、好きになりたい、とは言ってましたが、自分でもよくわからない、とも...」


「笠原さんは、誰に憧れてるのかね、堂上」
「知るか俺が」
眉間に皺をよせたまま、一気に缶ビールの残りを飲み干して、カーン、と勢いよくテーブルにおいた。
「....憧れて追いかけてきた人は、もう図書隊にはいないかもしれない。それでも、追いかけたいものがここにはあるんだ、とも」
それ以上は話ししてくれませんでした。
そういうと手塚も缶ビールを煽ったあと、押し黙った。


そう話した時の郁の顔を思い出した。
良き同僚、良きライバルとして肩を並べていこう、双方がそんな思いに傾きはじめていたのに、そのときの郁は、なぜか女の顔して節目がちに微笑みを浮かべていた。
恋愛感情はない、なかったはずだが、ドキリとした。


全国初の女性特殊部隊員である郁は、下手するとそこらの男性隊員よりずっと男前だ。
化粧っ気もないし、言葉も、行動も大胆で女とはとても思えない。


うっかり成分たっぷりで、一緒に出かけたときも、案の定駅の階段でつんのめって前へ転げ落ちそうになったときに反射でその身体を抱えた腰の細さとウエイトの軽さ。
人の波に飲まれて、あらぬ方向へ連れて行かれそうになったときに、とった掌のやわらかさは、やはり女の物だった。


「まあ、俺たちからみれば、笠原さんはやっぱり女の子なんだよ」
ときどきオトコマエ格好良すぎるけど。
ね、堂上、とでも言いたげに堂上に向かってクスりと笑顔を向ける。


「それだけあいつのことがわかってくれば、いい同期同僚になれるんじゃないか」
そう言った堂上に、手塚はハイ....と素直に答えた。
「友達として、仲間としては、男前でいいやつです」
下手すると同室の同期のやつらより、と正直につぶやいてしまう所は手塚らしかった。

「手塚って自分から付き合ってくれ、って言ったのは初めてなんだってね」
上戸に陥りやすい上官が話を続ける。

「はい」
何か言い足そうな顔をしているのに、小牧はなぜかそれ以上の言葉を紡ぎ出さない。

手塚は郁のことはよく見てずいぶん理解したようだけど、自己分析はまだまだできてない、ってところかな。

小牧はそれを口出すことなく、一人ほくそ笑んだ。そしてチラリと班長殿の方へ視線を移す。
仏頂面のそれは、課業後の部屋飲みだというのに、眉間の皺が深いままだ。

「まあお前はきっと本気で惚れたら、ちゃんと大事にできる奴だろう」
堂上は手塚にそう一言だけ掛けて、缶ビールを飲み干した。






◇◇◇





翌日の館内巡回は、堂上と郁のバディだった。
「あ、あの、堂上教官」
午前中の巡回が始まる前に、郁が堂上を呼び止めた。
「なんだ」
「その…いろいろご迷惑おかけしました」
「特に怪我もしてないし、迷惑も掛けられてない」
いやこの前助けてもらったことだけじゃなくて...その、まあいいか。


「わかりました。笠原、これからもがんばりますから!」
「ああ、励め。ただし、女であることを忘れるなよ」
お前一緒に巡回していると、俺につられて男トイレにも付いてきそうだからな。

「ちょ!そんな訳ないでしょう教官!!」

郁が反論している間に堂上は先へと歩いてた。
堂上の顔が、勤務中だというのにほとんど見かけたことのないような笑い顔だった事に、郁は頬を膨らませた。

『堂上二正はお前のことをよく見ているよな』

ファミレスで仮の彼氏彼女関係を解消するときに手塚が最後に言った言葉を急に思い出して、ど、どういう意味だろう?と思いながらも、郁は顔が赤くなるのを隠しきれなかった。







fin

 

(from 20120722)





描き始めたときは、連載と言われる長さになるとはつゆも思わず...(苦笑)
Beginners=恋愛初心者、というテーマで描きました。
(っていわないと伝わらないかも...(>_<)って、私の文才...)
そして裏テーマは月9ね(笑)

 

 

 

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