+ その腕をとって +  革命中(革命のつばさバージョン)

 

 

 

「原発危機」に纏わる案件で作家の当麻蔵人を稲嶺顧問の自宅で匿う事となり数週間。
とうとう良化隊に潜伏先を知られる事となり、堂上と郁は夜中に当麻と共に稲嶺邸を脱出し、立川の図書隊管轄となる地へ向かった。
その先で玄田隊長の段取り通り、車ごとコンテナに乗りこみ、関東図書基地までのわずか10分ほどの空路の旅となった。


基地まで後数分、という位置まで来ると、図書基地の動きを頭上より監視していた良化隊に銃撃の歓迎を受けることとなった。
なんとしても、基地まで持ちたい、持たせたい。
この任務が今何よりも重要だと、ヘリの操縦士達はわかっていた。


元々輸送用であるから、反撃の手段はない。
銃弾に当たらぬよう、荷を落とすことのないよう飛ぶだけだ。


痙られているコンテナも大きく揺れる。
銃弾が車の外のコンテナに激しく当たっていることも十分わかる。
貫通してくることは無いようだが、ヘリのエンジンに当たったら...、ロープに当たったら....
と思うと、揺れることの怖さより、それに対抗する手段がなく、ただこの狭い車の中でじっとしているしかない自分に苛立ちと...恐怖を覚える。


闘争に慣れない当麻が叫んでしまうのは当然だが、あまりの振動に郁も声を荒げてしまった。

「大丈夫だ、仲間を信じろ」
堂上はそういい、郁の右手を握った。
突然暗闇で手を握られた郁は驚きで声も出ない。

その時また、銃撃でヘリが急降下し、コンテナが大きく揺れた。思わず頭を抱えるようにして、反射で身を低くしたと同時に、堂上の腕が郁の左手にも伸びてぎゅっと握られた。最初に握られていた右側からは、身体ごと引き寄せられ、頭から抱きかかえられる格好になった。

えっ...

うわっ、あたし今、堂上教官に抱き寄せられてる?!

その瞬間ヘリが落ちてこないか、コンテナが落ちないか、と考えてた事が一遍に吹っ飛んだ。
堂上の胸に顔を寄せられ、郁の耳に堂上の鼓動が響いてきた。銃撃の音で聞こえないはずの堂上の鼓動が。


今、誰かに顔を見られたら舌を噛んで死ぬ。



◆◆◆



コンテナはヘリが不時着する前に切り離され、中の車と人には幸い被害がなかった。
当麻は先に車を降り、庁舎へと案内された。
堂上と郁はそのまま車を駐車場へ置きに行った。

車に二人きりだと思うと、先ほどの光景が脳裏に蘇る。


駐車スペースに車を止めて、降りようとシートベルトを外した時だった。

「笠原」
「はい」
「....腕を出せ」
「はい?」

堂上の言うことの的を得ていない郁だったが、自ら腕を出す前に業を煮やした堂上が郁の腕をとり持ち上げた。
そして、その細い腕に自らの掌をそっと這わせて、そのまま二の腕を揉み始めた。

「きょ、教官?!」
予想もしなかった出来事に再び郁は頬を赤くした。

「....あんなもの振り回してぶん投げるなんて、戦闘職種の男でも早々しないぞ。
急激に筋肉を使ったんだ、なるべく早めにほぐしてやらないと、筋を痛めて大変なことになる」
そう言いながら、堂上は腕を揉むのを止めない。
筋肉と筋の位置を確かめながら、固くなっているところが無いかどうかを指先で探る。

「わ、わかりました教官。に、二の腕なら、じ、自分でできますからっ」
「いいから、俺の好きにさせておけ」

堂上はそう言い捨て郁の右腕を離し、反対の左腕を引き寄せた。
郁の手首を掴み、自らの掌をゆっくりと二の腕まで撫で上げ、固いところが無いかを確かめる。
そして、裏側をまた確かめながらゆっくりと降りてくる。

日差しの下で訓練をしているというのに、戦闘服の下に隠れ、焼けていない白い肌。
鍛え上げられているのに、細くしなやかで、無駄なものがないスレンダーな二の腕。


この左腕をもっと強く引き、再び郁を抱き寄せてしまったら。
カミツレのお茶を飲みに行って、俺たちの関係は変わったか。
お前の気持ちはどうだ。
言葉を紡がずに抱き寄せたい衝動に駆られる俺は狡いのか。


腕の筋を揉みほぐしながら、俯いたままの郁の顔を覗く。真っ赤な顔をしたまま、口をぱくぱくとしていた。
その様子をみて、やりすぎたか、と堂上は苦笑した。


「怖かったか?」
もちろん、今の事じゃない。先ほどのコンテナ輸送中の銃撃の事だ。
「怖かった...というか、何も出来ずにじっとしているしか出来ないのが、ちょっと...
自分でもがけずに運に天を任せる、というのがなんか...」
苦手で。


でも、堂上教官に抱き寄せられてからは、それどころじゃなかったです、とははずかしくて言えない。


堂上の手が腕から離れたと思ったら、頭の上にポンっと優しく乗った。
はずかしかったけど、それがうれしくて顔を上げた。目が合った堂上は何故かすこし赤い顔をしていて、今度は堂上の方が視線を外した。


「よくやった、行くぞ」
「はい」


堂上の手が離れ、それぞれドアを降りる。
必死で赤くなった顔を元に戻そうとするけど、そう思うほど、先ほどまでのやりとりが蘇る。
ダメだ。


郁はパンっ、と自分の両頬を叩いた。
「教官」
「なんだ」
「当麻先生が無事でよかったです」
「そうだな」

教官とあたしも、無事に戻れて。
数歩先を足早に歩く堂上の後に続く。大きな背中と逞しい腕と繋がれた掌と。
もう一度、その手にとられることがあれば、きっと自分からは離さない、部下として...女として。
離れず、離さず、その背を追いたい。きっと一生変わらない、改めて郁は心に刻んだ。




fin

 

(from 20120623)

 

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