+ タイムスケジュール +  結婚期SSS 

 

 

 




多くの友人と同僚に祝福された華やかな結婚式と二次会を終えて、堂上と郁はホテルの上級階に宿泊した。
翌朝レイトチェックアウトをして、ゆっくりと官舎へ帰る。


武蔵境の駅からの道は、何ら変わりがないのに、手を繋いで基地へ向かう二人にはまるで違う場所を歩いているかのように思えた。
結婚前と同じ、愛する人の手を繋いでいるのにこの違いはなんだろう?


隣を歩く人も同じようなことを考えていたのか。
前を向いて歩いていたはずなのに、なぜかちらりと横に立つパートナーの顔を覗いた。
同じタイミングで視線が絡まった。

「篤さん」
「なんだ」
「あたし達、夫婦なんですね」
「ああ」

そう、手を繋いで歩く先にあるのはこれから二人でずっと過ごす家だ。
いままでは基地までの道のりは、最後の逢瀬の時間をを惜しむ時でもあった。
時間が迫っているのに、帰りたくない。この先は男女別の寮だというのに、離れたくない。

そんな想いで歩いていた道。
もう、手を離す必要も、違う部屋の灯りをつけることもないんだ、と思うと基地までの道は寂しさをみじんも感じなくなった。





◇◇◇




「もう一日ぐらい、休みをとっておけばよかったな」
新婚旅行は、新入隊員の教育期間が終わってから行くことにしたので、明日はもう通常勤務だ。
「そうですね、意外と食材とか買い込んでないし」
「明日は内勤だから...二人で有給とるか?」
いや、そ、それはいろいろと...後でからかわれそうな気がする。

当初は隊長からは3日休みをとるか?といわれていたのだが、遠慮して2日にした。
結婚を決めてから、親への挨拶や式の準備、新居の準備と、最短で突っ走ってきたから、新婚生活ってどんな風なんだろう?生活スタイルや習慣の違いって、どうやってすりあわせていくんだろう?なんて考える余裕も無かった。


新居を整えるのも公休を使ってやってきたが、まだ二人の新生活を始めるのには何か、準備が足りない気がした。
それは....

「篤さん、やっぱり明日は出勤しましょう!!でも、できたら午後は有給とっても、問題ないですか?」
「ああ、構わないと思うが...」

堂上は直感で、郁の斜め上思考が始まった気がした。

「じゃあ明日は夫婦生活の予行演習ってことで」
「予行演習?!」
もう夫婦になったのに、予行演習ってなんだ。

「だって官舎住まいって、ゴミ捨てルールも違うし、ご飯作りとか、掃除洗濯とかあるんですよ?!いつ、どうやってこなすか考えないと!!」
それに、朝だって女には自分の準備とかあるし。自分の事だけで30分。朝食とか片付けとか考えたら...出勤前が1時間じゃ足りない気がする。

「家事はできる方がやればいい、ご飯も早く帰ってきた方が作ればいいだろう?」
「...でもあたし、奥さんだし」
「俺は郁が欲しくて結婚したんだ、奥さんが欲しかったわけじゃない」

だから、郁が家事にばかり気も時間もとられているのは嫌なんだ。
これからは時間制限なしで郁といられる、堂々とだ。

「その一日のタイムスケジュールの中に、俺に構う時間もちゃんと入れろよ、郁」

髪を無骨な指で梳かれ、耳を甘噛みされてから、吐息のような低い小声で堂上にささやかれた一言に、郁はゾクッとして撃沈した。
最後に抵抗したのは一言。

「......じゃあ、頭の中のタイムスケジュールには『番犬の世話』って書いておきますねっ」




fin

(from 20120710)

 

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