+ プレショコラ・ランデブー 前編 +    ホワイトディに贈る(?)バレンタインディSS(堂郁恋人期&手柴)







もうすぐ、世に言うバレンタインディ。



絶対お菓子メーカーに踊らされてるよねーって思うけど、街中を飾る高級チョコのきらびやかなデコレーションや甘い匂いを嗅ぐと、なんとなくその気になってしまう。
本命用?自分用?友チョコ?

日本でいうバレンタインチョコは女の子が好きな人に愛を告白する日のチョコで。
「義理チョコ」「友チョコ」なんてものが長い間学校やら会社やらで当たり前の風習になっている。
ご褒美に「自分チョコ」として高級チョコを!もブームらしいし。情報番組では一個5000円近いチョコ、なんていうのも見かけた。
どんだけ高級なの?味もそんなに違うの?!
甘い物好きの女子にはものすごく気になる所だけど食べたらあっという間に口の中で溶けて消えるのだろう、と思うとご褒美だとしてももう一つ手が出せない。

  




◆◇◆






「うん、今年も家庭科部の先輩に教えて貰って手作りチョコ作る予定。でも保険っていうかさぁ...あ、兄ちゃんたちのも買って贈らないとだしさ!」

めずらしく郁と柴崎の公休が一緒になったとある日、郁は柴崎を口説こうと必死だった。
いつも通り郁は堂上とデートだろう、と思っていたら、堂上は隊長に呼ばれて昼過ぎまでは間違いなく事務所に缶詰らしい。
「図書館で時間潰そうかな、とも思ったけど、せっかく柴崎と休みが一緒だし!」
柴崎と休みが一緒でしかも堂上が都合悪い、というタイミングはなかなか郁には訪れない。
堂上教官と一緒に過ごしたい気持ちはあるけど、たまには柴崎とも出かけたいし!
とあくまでもあたしの皮算用で悪いけどさぁ...とそんなところは馬鹿正直で可愛い。

「わかったわよ。じゃあ、あんたがとびきり可愛い格好して出かける、っていうなら一緒に行ってあげてもいいわよ」
「・・・わかった手を打つ。でも可愛い格好のワードローブなんて無いよ?!ってそれより柴崎はチョコに用は無いわけ?」
「無い」
柴崎は即答で返した。
「業務部一同は他の子が用意してくれるから集金待つだけだしー、だいたい、あたしが特定の誰かにチョコをあげるっていう事自体が図書隊にとって一大事になるじゃないのよ!」
「何その自信満々」
「事実だもん」

郁はふぅ・・・とあきれ顔を向けたが、こんなやりとりをしながら買い物に行くのが楽しいんだ、って二人とも判っている。
「じゃあ、30分で支度しなさいよ」
「あたしそんなにかかんないって!」
「あら、可愛い格好指定なんだから、ちゃんとお化粧もバッチリしてもらうわよ」
なんで女二人で出かけるのにそんな?!と言いたいがここはグッとこらえた。
「はいはい、じゃ、柴崎がメイクして」
「・・・高いわよ?」






◆◇◆






自分であれこれ服を悩んだものの、最終的には柴崎コーディネートで郁は出かけることになった。
「柴崎これって・・・!?」
先月結婚するから服のコレクションを整理するんだ、といって「ミセスが着そうにない服はあげるわー」と潔く置いていった先輩からの頂き物は郁にはちょっと手の出しにくいラインで。エナメル風のホットパンツに肌色ストッキングとニーハイタイプのブーツ。
「ブーツがエナメルじゃないだけ十分地味よぉ。あんたの綺麗な足が拝めてよかったわー」
と何処の男子だ!?みたいな事を言う。
「・・・でこの上着なの?」
「コレにはショート丈が合うってば」
用意されたのは一見鳥の羽か?!というようなフワフワが一杯ついているショートジャケット。
インには薄手のニットのアンサンブルを合わせた。

「きゃぁぁ!これでサングラスしたら絶対笠原だってわからないかも」
どこぞのモデルでも十分通用するわー、と柴崎はいやにご満悦だ。
「・・・サングラスはしないから・・・」
郁はもう抵抗することはとうにあきらめた。


支度を終えたらしい柴崎を見るとカラータイツに膝丈のワンピース。
「・・・何か柴崎だけお上品じゃない?」
「そりゃ中味が上品だからね、まあ、あんたが目立ってくれればあたしに男性の視線が集まらなくなってちょうどいいのよ」
ってあたしはナニ虫除けなの?!
と喧嘩になりそうだったが郁はグッとこらえた。どっちみち勝ち目はないのだから。



結局それはそれは目立つ女二人となって駅へ向かった。
「吉祥寺で手をうつ?」
「んー、新宿まででたら遅くなるかなぁ」
「じゃあ遅くなったら堂上教官に出てきて貰えば?」
あ、それもいいかな、と郁は思った。と同時に柴崎の方をみると、早速携帯を取り出してメールを打っていた。
「あたしの方は気にしなくていいわよ、あんた以外のボディガードを呼び出すから」
公休が間違いなく一緒だと判っているのは同じ堂上班である手塚だ。まあ、手塚もでてきてくれたら安心だし、と郁は軽く微笑んだ、口には出さずに。



確かに電車の中ではずいぶん視線を浴びた。
が、それ以上のこともなく柴崎はいやにご機嫌な様子だった。
「やっぱ目立つ・・・よねぇ・・・」
郁は俯いて改めて自分の足下を見つめる・・・なんか雑誌の中の服みたいで恥ずかしさが込み上げる、ってなんであの先輩こんな派手な服持ってたんだ?!と違う方向へ八つ当たりしたくなった。
「昼間だし、もっと繁華街とか山の手内に入れば声かけられて面倒かもしれないけど、このあたりだったらこのくらいの目立ちようがちょうど良いのよ」
ま、モデルか何かだと思われて逆に声かけられないし、あたしはあんたを隠れ蓑にできてちょうどいいしね、とウインクで返してきた。
そこまで考えてるのか、この女!と思うがもちろん口に出して言い返すことはない。
「迎えに来てくれる堂上教官の顔を見るのが楽しみだわぁ」
柴崎にばっちりコーディネートされた段階でそれを楽しみにしているのは十分承知の上だ・・・また似合わないって渋い顔をされるかな・・・と郁は少し先の未来にため息をついた。


やっぱり女同士のショッピングは楽しいな、って思う。
デパートと駅ビルの2件を梯子して高級チョコから初上陸の海外チョコ、チョコと違うもののコラボレーションものなどさまざまな季節限定のシチュエーションを楽しむ。
いろいろ見たけど、結局無難な高級トリュフチョコをいくつかと、帰ったら二人で食べようという限定チョコを共同で買ったりして目的を達成した。
この前雑誌でみた行列のできるレストランに並んで、とりとめもない事を話しながら美味しいランチコースを堪能する。
「堂上教官からメール来たの?」
「うん、3時半過ぎになるって」
お出かけ用のオシャレな腕時計を覘くと2時少し回ったところだった。
「じゃあ少し春物でもみて時間つぶす?」
「そうだね、手塚は何時にくるの?
「・・・あたし手塚来るって言った?」
「いやっ・・・そう思ったから?だってそうじゃないの?!」
笠原のくせに生意気!とデコピンされた。
「いったーいっ」
でもこれが柴崎なりの照れ隠しなのだと、つきあいの長くなった郁にはわかっていた。




あと20分で着く、と堂上からのメールをもらってぼちぼちと待ち合わせ場所に二人で向かう。
「手塚はどこにいるの?」
「ん、書店でぶらぶらしているっていうから、あんたを堂上教官に引き渡したら向かうわ」
引き渡しって何・・・と怪訝な顔をしたのがわかったらしく
「その格好のあんたを一人にしたら堂上教官に後で何言われるかわかんないでしょ!それに笠原の服の評価も聞きたいしねー」
ニコリと微笑む。この女一体何を楽しみにしているんだか・・・

案の定二人が先に待ち合わせ場所で立っていると、訓練速度で近づいてくる堂上の表情が険しいのが遠目でもわかった。
「教官、急がせてしまってすみません」
郁はぺこりと頭を下げた、会えて嬉しいのに案の定・・・だから。
「・・・そんなにこいつを目立たせてどうするんだ、柴崎」
「お疲れ様でーす、いえ、今日は隠れ蓑になってもらったんですよぉ、囮捜査じゃないですしね」
もちろん柴崎プロデュースですから、似合いますでしょ?とまたニコリと微笑む。
「ああ・・・よく・・・似合ってる」
郁が自分をみて不安げな表情を浮かべていたのがわかっていたので、不器用ながらもきちんと似合うと伝えた。

「じゃ、あたしの役目はここまでですね、あとは教官よろしくお願いしますね」
「ああ、手塚にもよろしく言ってくれ」
軽く手を挙げてその場を立ち去った柴崎の後ろ姿を二人で見つめながら、郁が疑問を口にした。
「そういえばなんで柴崎が手塚と待ち合わせてる、って知ってたんですか?」
「寮の玄関で会ったからな。それはそれは目を引く格好で二人が出かけた、って寮にいた休みの奴らの中で噂になってたと聞いた」
「す、すみませんっ・・・一緒に出かけてもらう条件に柴崎が・・・」
似合うと褒めてはくれたけど、不機嫌な堂上の様子がどうにも気になる。二人きりになったのに手も繋いでくれないし・・・
と思っていたときに、だだ漏れだったのか堂上が郁の手をきゅっと繋いでくれた。
「・・・ホントのモデルみたいな可愛い格好を他の奴らに見せたくないだけだ、だから迷子にならないように側にいろ」
「は、はいっ」
少し照れた風に、そっぽ向きながらも手はぎゅっと握って自分のポケットに押し込んだ。
いつも通りにしてもらえたのが嬉しくて、郁は少しだけ体も寄り添うようにして堂上に続いて歩き始めた。




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(from 20130314)