+ 欲しいもの +  堂上篤生誕祭2013への貢ぎ物SS  図書館戦争botさま小話

 

 

 

 

図書館戦争bot @tosyobot 
クリスマスは多忙でデートする時間もない。泊まりならば少しは会える時間も作れるのだが今はそんな関係ではなく。 付き合って数ヵ月。堂上の欲しい物は決まっていて郁はそれをまだ知らない。『メリークリスマス』と郁からのメールを読みながら進展のなさに落ち込みかけた。 #図書戦妄想吐き捨て場





「今日がどんな日か知ってるか?」
「・・・クリスマスです」
それ以外に何があるんだろう?と少しふてくされた物言いで返す。互いに忙しくて閉館後に片付けまで手伝ったら寮に戻ったのは21時近かった。堂上だって月末までに提出する書類が年末で前倒しになるからと書類の山に埋もれていた。互いにそういう仕事だと解っているから『約束』はしなかった。逆に約束しなかったから自主残業を買って出た。

生まれて初めて彼氏がいるクリスマスなのに、普通の恋人同士みたいに過ごせない。
そんなカップルは世の中に山ほどいるだろう。だけど好きな人と一緒に過ごすクリスマスを迎えている人も居ると思ってしまうと、わかっていても寂しさが募る。
だから早く帰寮しないで仕事でもしている方が気が紛れる。
いつもの年と変わらない、普通のクリスマスだと思えばいい。堂上とは正月休みに一緒に出かける約束をしたのだから。

-----------本当は少しの時間でも顔が見れて嬉しかったのに。
開口一番、なんでお前こんな遅くまで業務部の手伝いとかしてんだ!と寮のロビーで小さく怒鳴られた。このまま会えないだろうな、と思ってあとで『メリークリスマス』とだけでもメールしようと考えながら此処まで戻ってきたら、恋人の顔をする前の、上官の仏頂面が待ち受けていた。


その日は丸一日業務部の手伝いで図書館内にいたので、朝礼で顔を合わせたきり堂上とは一緒にならなかった。何度電話したのに何故出ない!と言われて、慌てて携帯を開けば堂上からの着信とメールが何件も。
「途中で7時には上がれそうな目処がついたから、飯ぐらい食べに行こうって思ったのに何度連絡しても音沙汰ない」
共有ロビーで説教モードに入り郁はシュンとなる。寂しかったから仕事してました、って言ったらきっとアホかと怒鳴られる。
「・・・早く外泊出してこい、腹減って死にそうだ」
「へ?!」
「そのままでいい、行くぞ」
は、はいっ!と慌てて寮監のところで書類を書いて戻れば、強く手を引かれて玄関の外へ連れ出された。



ちゃんとした食事を取るには遅い時間になっても少し洒落た店は混雑していたので、手っ取り早くファミレスで腹を満たした。
寮を出た時間が遅かったからと念の為に外泊届けを出しては来たが、今はまだこのまま帰寮しないような関係ではない。商店街のネオンも遠ざかり住宅地にさしかかると冬空に星々が一際綺麗に輝く。このところ寒さぐっと増したのに、ぎゅっと繋がれた手は堂上のポケットにねじ込まれて身も心も暖かい。

-----------忙しくてもあたしと会いたいと思ってくれていた、それだけでも嬉しい。
同時にあたし、まだまだ彼女としてダメダメだなぁと小さくため息をついた。あたしの方はクリスマス前に公休もあったのに、結局堂上のクリスマスプレゼントを用意できなかった。
いや、言い訳すれば誕生日とクリスマスがほぼ同時に来るから!片方だけだって悩み悩んだのに、もう一つ考えるとか経験値の低い郁の頭では無理難題で。

だから誕生日はサプライズにしたけどクリスマスの方は「クリスマスプレゼントは何がいいですか?」と素直に聞いたのに。

ずいぶん長い沈黙の後に堂上の口からでた言葉は「・・・お前がいればいい」の一言。
いつだって傍に居るじゃないですか!と違う答えを要求したら、ぽんぽんっといつものように頭を叩かれた。
ああ、それじゃ経験値の低いあたしには解りません教官!と心の中で叫びながらも、結局何も用意できずクリスマス当日になってしまった。
手ぶらのままでクリスマスと彼氏と過ごすとかホントあたし女子力低いわー。
今更女子力なんて引き合いに出しても存在するはずがないって解っているのに落ち込む。



本当にご飯だけのクリスマスデートになっちゃったな。

メールにも電話にも、堂上の心遣いにも気がつかなかった自分が悪い。ちらりと時計に目をやればあと数十分で門限だ、情けなさと寂しさで少しシュンっとなっていたら「外泊、出してきただろう」と心を見透かされたような言葉が返ってきた。そっか、慌てなくてもいいんだ、と思うと頬が少し緩む。
堂上に手を引かれるままに途中にある児童公園へと足を踏み入れると、誰もいない静かな暗闇にぼんやりと外灯が浮かんでいる、二人だけの世界。

「少しだけな」
堂上は郁の正面に立って腰を抱き寄せた。あ、くる---------
唇が重ねられる気配はようやく覚えた。目を伏せると同時にやってくるのは思考が跳躍する感覚。
触れるような、探るようなキスを重ねた後、ぐっと後頭部を押さえられて唇の隙間から舌先をかすめ取られる。

告白の答えをくれたキスから、もうどれくらいキスしただろう?
慣れたようで慣れない、為されるままでいるべきか、応えるように自分から絡めるべきか、そんな事を考えるのは最初のうちだけで。
息が出来なくてわずかに口を開けば水音と吐息が静寂の中で恋情を高揚させる。
「・・・ぅ、ふぅ・・・ん」
思考が蕩けていく郁の腰を支えるように手を伸ばして引き寄せる。息が上がりかけている郁の唇を解放すると、整えるかのように少し低い堂上の肩先にこつんとおでこを乗せた。

「・・・ごめんなさい、クリスマスプレゼントもケーキも無しになっちゃいましたね」
初めて2人で迎えるクリスマスだったのに。ずっと郁はそれを気にしていた。
「プレゼントは今貰った。それとももっとくれるか?」
「へっ?って何を?」
「・・・いや、もうお腹一杯だな」
郁をぎゅっと抱きしめながら堂上が苦笑する。夕飯食べたばかりだから、そりゃそうだろうと郁の思考は通常営業で。

何も貰ってないように見えてたくさん貰ってるのはあたしなのにな、と思う。
女の子扱いも、彼女扱いも、甘い顔も、吐息もキスも。こうして抱き合って温もり感じることで、好きだという気持がぐんぐんと大きくなる。
-----------もっともっと伝わればいいのに。この気持だったら今すぐいくらでもあげられるのに。
「あたしもたくさん貰いました」
「じゃあ冷えないうちに戻るか。正月までに風邪引かれたら困るからな」
最後に、と惜しむように再び唇を合わせながら堂上は本当に欲しい物を今貰えるギリギリまで堪能した-----------。

 




fin

(from 20131225)