+ 艶姿花火デート + ムッツリ強化委員会寄贈SS 恋人期
彼氏と二人で花火大会に行く、って憧れてたんです。
ようやく腕の中に収まった無邪気な恋人は可愛いことを言った。
「じゃあ、行けそうな花火大会を調べておくな」
「はい」
そのときの郁は本当に嬉しいらしく大輪の花のように笑った。
ネットで首都圏の花火大会を検索すると、ちょうど公休日に重なるものがあった。
浴衣を買ってやろうか、と提案したら、
「教官が花火大会に連れて行ってくれるんだと言ったら、じゃああたしが見立てないとね、ってきかないんです」
と言われ、あっさり柴崎にデート一日分を奪われた。
「じゃあ迎えに行くから夕飯ぐらい一緒に食べるか」
と提案してすることで、折り合いをつけた。
前もってそう言っておけば、きっと柴崎は手塚を呼び出して飲みにでも行くだろう。
浴衣を購入したものの、花火大会当日は柴崎が公休じゃないから、浴衣を1人で着る自信がない、と言い始めた。
俺は少し思案して、実家の母にメールした。
公休日だったのか返事はすぐ戻ってきた。
「お袋が花火大会の日は病院の夜勤だから日中は家にいるそうだ。郁の浴衣を着せてくれると言うから実家に寄ってから行こう」
「教官のお母さんにお手間かけちゃいますけど、いいんですか?」
「久々に郁が会えるのが嬉しい、と言ってたから大丈夫だろう」
よかったぁ。とホッとした表情も可愛い。
本当に喜怒哀楽でくるくる表情が変わる、それを自分だけが間近で見れる事がこんなに幸せだとは。
花火大会当日。
花火を観に行くにはずいぶん早い時間に待ち合わせをして、駅ビルでランチを食べた。お母さんとケーキを食べたいから早く行きましょう、と促される。
郁と実家まで手を繋いだまま歩いても、近所過ぎて恥ずかしい、という気持ちは俺の中ではずいぶん前に薄れていた。
「ただいま」
「いらっしゃい、郁ちゃん」
「ご無沙汰してます、おじゃまします」
玄関先に出てきた母に、郁は丁寧に挨拶してうちへ上がる。
「着替える前にケーキいただいた方がいいわね」
母がそういい、早速ティータイムになって、女同士の話に花が咲いた。
彼女をつれてくるだけで母がこんな嬉しそうにするなら、こんな親孝行も悪くない。
篤の分もあるから着てきなさい、と男物の浴衣をお袋に渡された。
それは濃いこげ茶に格子の織りが入った浴衣で背丈もきちんと俺のサイズにあわせてくれてあったが、まさか自分も着るとは思ってなかった。
「...素敵です、教官。なんか...ドキドキしちゃいます...」
教官やっぱり戦闘職種だから...鍛えている人の浴衣姿ってこんなに格好いいんですね。どうしよう、すれ違う女の人がみんな教官に見惚れちゃったら...
郁は見慣れない俺の浴衣姿を見て頬を真っ赤に染めながら小声で呟いていた。
お前、そんな恥ずかしいことだだ漏れでいうな!
俺にしてみれば、
「お前の方が何十倍もいい」
それはお世辞でなく、本心だ。耳元でそう囁いてやれば、郁はもっと真っ赤になったかもしれない。
だがお袋の前だから、しれっと言っておくだけにした。
浴衣姿の郁は、ショートヘアを細かくカラーのゴムで結び、ピンで上げられていた。その衿元から見える項が、後れ毛が、堪らなく俺を誘う。
「そろそろ行くか」
「はい、ずいぶん明るいうちに行くんですね」
「早めに移動しないと電車が混むんだ」
二人とも下駄だから、駅まで向かう足並みはゆっくりだ。実家で貰ってきた団扇を郁が仰ぐ仕草すらいつもより女っぽく見える。
スレンダーで姿勢が良い郁は本当に浴衣がよく似合い、さりげなく通り過ぎる人並みの目線が集まっていることに俺が気づかないはずがない。
俺は繋いでいた手を少し強く握り直して、郁を自分の方へ引きせた。
「立川の花火大会、楽しみですね」
「ああ、公園内が会場だから、川沿いでやる花火大会よりゆっくり観れるんだ」
それで敷物がいるんですね、出店はたくさんあるんですかねー、と郁は会場につく前から食べ物のこと気にする。
「たくさんあるから、好きな物食べればいい」
駅に着き切符を購入するために離した手を、郁の頭にぽんっと乗せた。
◇◇◇
国営の園内がちょうど入場無料に切り替わる頃に会場についた。
人は多いが、まだ二人で手を繋いだまま歩けるぐらいだ。
人の流れは中心にあるみんなのはらっぱに向かっている。芝生敷きの広場にゆっくり腰を下ろしながら、頭上に上がる花火の大輪が見れるのだ。
「へええ、こんなゆったり見れる花火大会があるなんて思わなかったです」
意外といいですねー、野球場で花火とかも座って見れますけど、隣の人が近いですからね、と会場の様子は気に入ってくれたようだ。
先に場所取りしますか?と郁に聞かれたが、いや、空いている内に食べ物を買っておこう、と言った。
場所取りしていまったら、どちらから留守番をすることになる。
それではどちらが買い物にいっても郁を一人にすることになるので、好ましくない。
郁は一通り出店を眺めてあれこれ買い歩いた。
「ずいぶん買ったけど、食べきれるのか?」
「大丈夫ですよ、花火打ち上げまで時間ありますし、教官も飲むときにつまみがいりますよね、ビールは買いましたか?」
「ああ、生ビールと缶ビールな」
「両方?!よく飲みますね」
郁は俺をからかうように笑った。
入場したときは、まだ花火大会だという実感がわかないくらいの明るさだったのに、7時近くになると急にうっすらとした闇が広がりだした。
芝生の広場はずいぶんたくさんの敷物が並んでいた。
俺は郁の手を掴み、あえて広場の外周にある芝と植え込みがあるスペースへと向かう。
「こんな所でいいんですか?」
「こんな所がいいんだ」
買い出しした食糧を一度横へ置き、郁がバッグから出した敷物をさっと広げた。
そして座り込む前に郁の腰を引き寄せ、耳元に口を近づけた。
「二人だけでゆっくり楽しみたいから」
そう耳朶の間近で囁いてから、ちゅっとわざと軽い音を立てた。
かすかな音のはずだが、郁にはきっとドキリとするような吃音だった。
「や...ん」
もう、外で何してるんですか?!
そう言いたげな表情を浮かべ、器用な上目遣いで俺を見つめる。
「教官、早く食べないと始まっちゃうし!ビールぬるくなっちゃいますよ!」
ぬるいビールはさすがに勘弁して欲しい。
郁の言うとおりおとなしくシートに座って、ビールと屋台ディナーを楽しんだ。
ある程度腹ごしらえが終わったところで、ドーンという花火開始の合図があった。
その音に会場から拍手と喝采が沸く。
「始まりますね」
「ああ」
食事も終わったので、隣に座る郁の肩をぎゅっと引き寄せてその柔らかい薄茶の髪を自分の肩へ乗せた。
ドーンと花火が垂直に上がっていく音と開いた花火がパラパラと散り落ちていく音までよく聞こえた。
「ほんと、すぐそばで打ち上げているんですね」
綺麗だなぁ...
何度もそう呟く郁の吐息が熱い。郁の肩に置いていた俺の掌は郁の髪を梳き、耳裏の項をゆっくり撫で上げる。
ゆっくり、こうして郁を撫でていたいのだ。
「きょ、教官?」
...気持ちがいい気もするけど、やっぱりくすぐったいです、そう恥ずかしそうに郁は呟いた。
そして花火の上がる様を夢中になって見つめている。
まるで子どものように、口が半開きになりかけている様子が可愛いと思うのは惚れた弱みか。
さっと風が吹いたときに郁から香る汗とシャンプーの混じった匂いが堂上の鼻腔をくすぐった。
生身の郁を感じる匂いだ。
もっと感じたくなって、目の前の柔らかい耳朶に自らの唇を吸い付けた。
そしてほんの少し、舌を滑らせると「ひゃっ...」と郁から小さな悲鳴があがった。
「は、花火...」
「ちゃんと楽しめよ」
「ちょっ....ん、き、きょう..かんは?」
くすぐったくて郁は首をすくめる。次々と上がる花火を見逃したくなくて、目線は上前を向いたままだが。
「........俺も楽しんでるから」
耳へ吐息をかけるような低音の小声で郁にだけ聞こえるように囁いた。
「...バカ」
郁はその一言以上は抵抗しなかった。少し気を良くして郁の崩していた太腿へと掌を乗せる。相変わらず花火に夢中な郁は何も言わない。
ゆっくりと掌を何度か滑らせ、合わせの隙間からほんの少し覘いた白い肌へと横滑りしてみる。
「きょ、教官っ?!」
こ、ココ外ですっ!
さすがの郁もこちらへ顔を向け、俺に睨みをきかせた。頬を赤く染めながら器用な上目遣いで怒る郁は、俺にとっては可愛さを増しているだけだ。
「誰も見てない」
みんな花火に夢中だからな。
「い、やっ、あたしが花火見れませんから!」
教官に触られたら、それだけでもういっぱいいっぱいですから!
「...じゃあ今ここで郁がキスしてくれたらやめる」
「!!!!!」
しばし考えた郁だったが、どんどん花火の打ち上げが進むのでこれ以上は時間を掛けられない、とでも思ったのだろう。
意を決して俺の衿を掴んで引き寄せた。
郁の柔らかい唇が運ばれてきた瞬間を逃さず、俺は郁の後頭部へと掌を広げ、強くホールドした。
「んんん....ん、あ....」
自分が満足するまで堪能してから郁を解放した。もうっ!と言って俺の胸を拳でトンっと叩いたが、すぐに花火に視線を戻した。
これ以上機嫌を損ねても後が困るので、俺は大人しく花火とビールを堪能することにした。
◇◇◇
フィナーレが終わった後、すぐに移動すると退去する人の波に揉まれたままずっと駅まで向かうことになる。
ある程度収まるまで、俺たちはそのまま座って夕涼みを楽しんでいた。
「花火、すごくよかったです。こんな近くでゆっくり見れたし」
教官の悪戯には困ったけど!
「さっきはお預けくらったからな」
「お預け、ってどうするつもりだったんですか!!」
「ちゃんとお前をいただく」
い、いただく、って...
「...だってご実家行くんですよね?」
着替えからなにから、みんな置いてきてるんだし。
「着替えならホテルに届けて貰った」
お袋の病院が立川だから、ついでに届けておくわよ、と言ってくれたんだ。
そういうと、堂上は郁の衣文へ手をやり優しく項を撫で上げた。
お前があんまり女っぽいから、触りたくなった。いい匂いもするしな。
「ばっ...」
だってそうだろう?郁の艶姿を堪能するのはこれからだからな。
「イヤか?」
「.......やだなんて言わないです...」
郁はそう答えると、俺の衿をぎゅっと両手で掴んで俯いた。
「じゃあ、そろそろ行くぞ」
支えるようにしながら郁の腰を抱き立ち上がる。片付けをして、二人は手を絡ませたまま公園の出口へ向かった。
◇◇◇
翌朝、早朝の上り電車に揺られて堂上と郁は最寄り駅へと戻ってきた。
郁が自室に戻ると、柴崎がちょうど起きようとしていたところだった。
「お帰りー」
「うん、ただいま...」
朝帰りとわかっていて声を掛けられるのは恥ずかしい。
「どうだった、花火と浴衣?」
「うん、よかったよ、ゆっくり見れたし」
「結局あんたの艶姿を堪能したのは堂上教官だけかぁー」
浴衣の女を脱がせるのは男のロマンだからねぇー、なんて言う柴崎はいったいどっちの立場なんだ?!
「...ずいぶん貪られったぽいわね。だいたい、そんな見えるところに徴、つけるかしらねぇー」
項の下、その位置なんて丸見えよぉー、と柴崎はほくそ笑む。
「柴崎ぃ。今度花火に行くときはみんなで行くか、ダブルデートにしようっ!」
柴崎に指摘されてあらためて鏡をみた郁は、半泣き風に柴崎に言った。
「はいはい、堂上教官が許してくれればね」
浴衣姿の郁を誰にも見せたくない、ぐらいな事を平気でいいそうよ、あんたの彼氏。
「まだ時間あるから30分ぐらい寝とけば?起こしてあげるわよ」
「うん、じゃあそうする」
寝不足と色香とけだるい雰囲気をまとった郁は、そのままベッドに潜り込んだ。
さて、きっとあの首筋の徴で郁と堂上は今日一日からかわれるんだろうな。
『お手柔らかにしてやってください、まだ色香だだ漏れですから』
柴崎はそう郁の彼氏の親友にメールを入れておいた。
fin
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