+ 証拠 +  spicaのショウタさま5万ヒットお祝いの貢ぎ物SS 

 

 

 


堂上は事務室の自席で、眉間に深いしわを寄せながら一枚のDVD-Rケースを凝視していた。



図書館の閲覧室には防犯カメラがいくつか設置されている。
その目的は、書籍や利用者の荷物などの窃盗行為の防止が主だが、今回のように、痴漢騒動が起こる状況であれば....
その映像記録は、犯罪の重要な証拠にもなりうる。



郁がミニスカートで囮捜査の餌として閲覧室にいた際も、当然カメラは動いていた。
犯人が防犯カメラを意識して痴漢行為を行っているかどうかはわからないので、必ずカメラが設置されている場所に立て、という指示はあえて出さなかった。だが郁が猥褻犯を釣り上げたとき、たまたまその位置には防犯カメラが向いていて....その行為が録画されていたらしい。


そしてその証拠映像がここにある。


上官としては映像チェックをして、証拠となりうる状態で痴漢行為の一部でも写っていれば報告書とともに上層部にあげ、また警察にも提出せなばならない。
------当然の事だ。



実際、猥褻犯は郁の背後から脚を触り、スカートの中に手を入れた、らしいが、その行為自体は堂上も自分の目では見ていない。

「たいしたことありません」と、仕事だから平気だという言い訳を作ろうとする郁に、手を伸ばしてしまいそうになったのは事実だ。
「たいしたことないなんて言うな」そういって引き寄せて自分の肩で泣かせてやれれば....



「それって、もしかして?」
相変わらず聡い小牧が、手元にあったDVD-Rを見て話しかけてきた。
「ああ」
「もう見たの?」
「いや、まだだ」

やはり見ないわけにはいかない。だが事務所で見るのも忍ばれる。カメラは天井に設置されているから、撮影は上からだが、はたしてどこまで写っているのか?
無自覚でうっかりな部下が、ミニスカートだという事を忘れて大外刈りを掛ける為に、あの細くしなやかな脚を上げている姿が...写っていたとしたら?


世の中には「痴漢物」というカテゴリーのAVも存在する。いくら大人な特殊部隊の連中だとはいえ、男は男だ。
かといって、証拠物でもあるこれを自室に持ち込むという訳にも...


「やはり会議室かどこかで見るしかないな」
そういって、堂上は席を立った。
「一人で?」
「......お前も同席するか?」
「俺まで見る必要は無いと思うけど...同席してくれ、というなら行くよ」
小牧はさらりと、いかにも自然に言ってのけたが、その言葉尻に少々グレーなオーラを感じる。

「いや、いい」
お前にも他に仕事があるだろうからな。

「もし証拠になるようなものが写っていたら、元データの映像管理も後方支援部からこちらへ移さないとまずいよ」
「そうだな」

小牧は俺の思考を先回りしたように忠告する。ああ、そんなもの、万が一にもコピーが出回ったりしたら大変だ。
「後頼む」
「いってらっしゃい」

堂上は振り向くことなくDVD-Rとポータブル再生機をもって事務所を後にした。
小牧の人当たりの良い微笑みに一抹の不安を覚えながら。


その時、今夜は小牧が自室に缶ビール持参で来るな、そんな予感が襲ってきた。



fin

 

(from 20120629)

 
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