+ 鬼教官の番犬 後編 +  上官部下期間フリーSS








遠巻きに見ていた新人錬成が、郁たちにも他人事ではなくなってきたのは、その数時間後。
手塚と二人、事務室に呼び戻されて副隊長から命をうけた。
「錬成教官に就いていた防衛部の田中ニ正が、身内が危篤で帰省される。本人曰く多分そのまま忌引に入るだろうと錬成教官を辞した。防衛部から代わりを出してもらうのが定石なんだが、中川二正が怪我で入院中だから人材がいないそうだ。ならいっそ雑務に回されてるお前たち二人にやらせろって隊長がな」
最後の隊長が、の一言ですべてが納得できた。自分達の階級で錬成教官なんぞあり得ない、雑務とはっきり言われたことも含めて。
「こっちでやりかけの仕事を整理して引き継ぎが必要なものは俺によこせ。それが終わったら教官控室に出向いて指示を仰げ」
「はい」
二人の返事が重なった。まさか士長なのに教官職をする事になるとは!

「手塚」
「今年の新人教育の責任者が玄田隊長だ。まあ俺たちにやらせる、って無茶にはそれなりに意味があるんだろう。早く片付けろよ」
うんわかった、とばかり大きく頷く。
新人の頃いがみ合ってた唯一の同期同僚の手塚も、今では頼りになる班員でバディだと郁は思う。まあ、認めてもらえない部分もあるけど、特殊部隊の中でいまだ一番新人な二人だからこそできる絆があると郁は思っている。
とにかく、早く整理しよう。
さして引き継ぎが必要な案件を抱えてはいないが、しばらくは此処にくる暇ももらえないかもしれない、荷物整理して必要な物は教官控室になっている小会議室に持参すべく行動を開始した。




支度を終えて二人で小会議室に出向くと、玄田が正面に座って資料を眺めていた。
「手塚、笠原、命によって新人教育職務のために着任いたしました」
「ああ、これだ」
手渡されたのは、今年度入隊者のリストと新人教育スケジュールやら班編成やらだ収められたファイル。
「田中二正がおいて行ったものなので、一部しかない。笠原の分はコピーしろ」
「はい」
「まあ本来なら士長では錬成教官の補助士にしか就かせないが、班をまるごとみる奴が居ないのでは始まらん。手塚が班長、笠原は副班長で田中班の面倒をみろ。最低限の個人所見は書いてあるから叩き込んでおけ。具体的な訓練内容は他の教官達が戻ってきてからだな」
「はい」
急いでファイルの中身をコピーした後、手塚は時計を見て「ちょっと訓練みるか?」と郁と共にグラウンドに出た。




訓練グラウンドにくるのは久しぶりだ。
まだ業務部員も防衛部員も関係なく一律訓練時期なので、相当の体力差が出る。懐かしい、と思いつつも今はそんな感傷で眺めている場合ではなく、田中班の班員らしき者達を探した。

「来てるね、あの二人」
「ああ」
グラウンドの隅に立つ部下達の影は視界の隅に入っていた。
「士長で錬成教官はちょっときついだろうけど」
「だからこそ、あの二人にやらせるんだろう」
郁と手塚が選ばれたのには理由がある。防衛部の人材不足もあったが、なにせあの二人は初めての所属から特殊部隊入りを成し遂げたエリートだ。外からみればその箔は大きい。そして一時的でも部下を面倒見るという今の環境では得られない経験。
「まあ、お前が錬成教官中はいつも以上に渋い顔をして職務遂行しているのは知ってるけど、それ以上に深くシワ寄せてると本当に癖がつくよ?そんなに心配?」
「当たり前だ。手塚はともかく、笠原だからな」
「今の笠原さんには、この時期何が大事かわかっていると思うけどね」
だが、心配なのには変わらない。新人達に年齢も階級も近い分だけ、舐められもするし、いろいろ風当たりも予想される。一番の心配は・・・・・・
「確かに笠原さんには士長だという事に加えて『女だ』ってのもあるか。それは、班長である堂上の仕事だよね?いろいろひっくるめてさ」
「・・・単純に俺の仕事が増えたってことか」
「まあそうなるね」
他人事のように小牧は苦笑しながら答える。
「手元に置いておく方が安心、ってのはあるかもよ?」
ぽんっと、堂上の肩を叩きながら言い逃げのように小牧は離れていった。



グランドの隅に立って、新人の訓練っぷりを見守る。
まだ数班が合同で行っているので、ファイルをチェックせずに全体のレベルを見極める。
指導教官の中に、堂上と小牧の姿を見つけると少し安心したのか小さなため息が自然とこぼれた。

堂上教官。

新人の頃はなぜこれほどまでに狙い撃ちされるのか、と憤った。本当にあの時のあたしにとっては鬼教官でクソ教官だった。今ならその理由もわかるけれど。
甘い気持ちや考えで入隊すれば、傷つくのは自分なのだと。
図書館業務は司書業務のイメージが強いので、防衛部所属にならなければ良化隊との抗争なんぞ関係ない、と思われる風潮がある。確かに小規模図書館では激しい抗争になるような検閲図書を扱わないという方針もある。図書館の自由に関する宣言を遵守したくても、利用者と隊員の命には変えられないからと。

正義だけがまかり通っているわけではない現実、それが図書隊。
一部だけが必死に抗争を続けているように見られてもしかたない現実があるけれど、何処の図書館勤務になってもそれを忘れないで欲しい、そんな想いがこの新人訓練には込められているんだと、今の郁にはわかる。
だから、生半可な気持ちで入隊している者は徹底的に扱かれる。

あたしに求められているのは、乙女心をもった女隊員でいる事ではない。あのときキツくされたから、食いついて行けたし、特殊部隊にも選ばれたんだと思う。
だから堂上に求められるべく、その背中を追う、あたしは教官の犬でいいのかもしれない。

そして堂上班が4人揃ったが、結局ミーティングで終わり、久々に一緒に汗を流すような状況にはならなかった。






翌朝、郁は早く起きて小会議室に直接出勤した。
「早いな、おはよう」
そう堂上に声をかけられて胸が高鳴る。うわっ、ここ乙女心飛び出してる場合じゃないっ。
「なんか、あまり眠れなくて」
「なんだ緊張してたのか?珍しいな」
「ってあたし緊張したら変ですか!?」
どきどきしたのをごまかすように、いつもより食って掛かったが、何故か柔らかく笑ってぽんぽんと頭を叩かれた。
「いや、張り切ってくれるのは助かる。だけど、お前の張り切りは八分ぐらいでいい、なんかやらかされても困る」
「うわっ、それやらかす前提!?」
「違う、って否定できるか?」
そこまで言われるとぐうの音も出ない。会話の中身の割に堂上が楽しげに見えるのは気のせいか。
「まあ、今日は二人とも俺と小牧のフォローに入ってもらう感じで訓練をつける。だが、班ミーティングは二人でしっかり仕切れ」
「はい」
「励めよ」
いつもの堂上の掌が郁の気持ちを落ち着かせてくれた。




「田中二正に代わって錬成班長を務める、特殊部隊所属の手塚士長と笠原士長だ。お前達と階級が近いといっても立派な上官だからな、きっちり仕込んでもらえ」
堂上にそう紹介されて二人はそれぞれ一歩前に出る。いろんな意味で好奇の目で見られているのがわかる。何しろ他の上官と比べて若い、そして郁は女だという事。
「今日までは合同訓練だが、明日からは班別カリキュラムを再開する。ではそれぞれ予定の訓練メニュー場所へ5分以内に集合の事、以上解散」
敬礼がやっと揃うようになってきた、というところだろうか。解散後はすみやかに移動、を心がけながらもひそひそと新人隊員の間から私語が聞こえる。
-------女教官、かぁ。全国初の女性特殊部隊員ってやつだよな。
-------もっとごついオトコオンナみたいなのかと思ったけど、まあまあだよな。
-------どうせならもうちょっと厳しくても大人の色気とか合ったほうがいいけどな、マチルダさんみたいに。
-------おっまえ、それ古すぎるだろう。
そんな、下世話な言葉は過去にも耳にしたことがあるから、郁は案の定、と思うだけだ。

ええ、熊殺しですから!女らしさに欠けているのは自分がいちばん良く知ってますから!
そう、入隊時から自分のポジションはそんなだったと、一番良くわかっているから、一番痛い。
だけどこれで遠慮無く、二代目熊殺しに続いて、二代目鬼教官になれる-------------




その後の訓練では、遠慮なく郁の怒号が飛んだ。
「ほら、そこ!遅れてるぞ、もっと速く!きっちりと腰を落とせ!」
手塚も郁ほどではないが、随分強く声掛で煽るように厳しく指導していた。

「やるねぇ、二人とも」
怒号でなくても上官が声を上げるのは士気を上げるために必要なことだ。こういった訓練では上官全員が声を上げる必要はない、むしろ若いものがしごきを引き受けるのが通例だということも郁と手塚は理解しているようだった。その分、上官は各隊員の適正を見極める方に集中できる。

思えば、あんなに怒鳴り飛ばしていたあいつが、こうして訓練つけてるんだからな、と思うと思わず表情を緩めてしまいそうになる。
とにかく堂上は新人の前では絶対笑ったりしない。それは此処何年か教官職につくたびに徹底していることだ。とにかく余計な注目を浴びたくないし、関心を持たれたくない。もちろん甘く見られたくない、というのが大前提だ。だが堂上班は目立つ存在だということは周知のことだ。
-------俺達はある程度躱し方を知ってるけど、笠原さんたちはどうかな?
班長はほんと、大変だねぇ、と他人事を楽しむかのように小牧は笑った。




郁達の厳しい指導も怒号も一週間ほとが過ぎてだいぶ聞き慣れてきた頃。
錬成教官職に就いても郁と手塚は士官食堂は利用しない、というか利用できない。新人の目もあっていろいろ面倒だし、上に口添えしてやるからこっちくるか?と上官の教官たちに言われたがそれは遠慮した。メニューの中身やボリュームも違うし、そんな立場ではないのに利用して気を使うのは嫌だ、というのが本音だ。
どっと配膳の列をつくる新人たちに続いて、郁と手塚もきちんと並ぶ。最初は「細腕の女のくせにおっかねえ、ありゃ女じゃねーな」と「わりと寡黙なのに言うことはきっついよな」いう評価を二人の代理教官につけていた新人隊員達だったが、とある事をきっかけに郁を見る目が変わったらしい。




あと10分ほどで小休憩だな、とちょうど郁が腕時計を覗いた時にそれは突然やってきた。
訓練中の新人隊員たちとは何処か違った荒い息が聞こえたような?と思った瞬間に大きな黒っぽい影に郁は押し倒された。
-----犬!?もしや!?
「ジェイク!?」
ワンっ!とばかりに吠えたかと思えば、倒されたままの状態でぺろぺろと頬を舐められた。ちょっ、と、待ってーーーー!と数秒状況判断に費やした後、身体をなんとか起こそうと踏ん張ると、首輪にはリードがきちんとぶら下がっているのがわかった。
ってことは、あの飼い主にまた放し飼いにされたのではなく、飼い主の元から逃げ出してきたってことか!?
「ジェイク!No!シットぉ!ちょっ、くすぐったいってばっ」
かつての堂上の言葉を思い出して命令するが、キレが悪いのかいうことを聞いてくれない。慌てて対岸にいた手塚がやってきてリードをつかむ。が、郁と絡んで興奮状態で伸し掛っているジェイクは一筋縄では収まらない。

騒ぎになっている事に気がついた堂上も郁の元に駆けつけ、郁の代わりにジェイクにコマンドを命令した。
「ジェイク!カム!」
大人しくならないならこっちへ呼んでやれ、とばかりに厳しい口調で命令を出せば、ワンワンっ、と答えて郁の元を離れる。そのまま手塚からリードをもらい、ジェイクを引き剥がした後「ステイ」と伏せさせた。
「大丈夫か笠原」
「はい、なんとか」
立ち上がりながら尻の土を払う。ちょっと潤んだ瞳でジェイクに睨みを利かせるが、本人は全く動じず、静観な顔つきの犬なのに嬉しそうにしか見えない。やがてジェイクの飼い主が走っているとは言えないようなスピードで訓練グランドまでやってきた。
「ジェイク!」
相変わらずキツイ化粧をした女性だったが、本人は必死で追ってきたらしく、息が上がっていて言葉を続けられない。
「・・・・・・解けた靴紐を、結び直してたら、この子が突然走りだして・・・、あなたの声が、聞こえた、からかしら・・・」
放し飼いにしていたわけじゃないのよ?とでも言わんばかりに言い訳を語った。
「わかってます、リードがちゃんとついてますかね。だめじゃないか、ジェイク」
犬をたしなめながらも堂上の表情は優しく柔らかく、ガシガシと彼の頭や喉元を撫で始めた。しばらくそうして久々の逢瀬を楽しんだ後、飼い主にリードを渡した。

そんな上官達と犬との絡みの一部始終をみていた新人隊員は、鬼教官達に対する認識を変えた。





「笠原教官、隣いいですか?」
士官食堂を利用しない郁と手塚のそばにはこんな輩がつき始めた。
「・・・・・・いいわよ」
混雑する食堂内でダメとはいえない。ありがとうございますっ、と嬉しそうに新人隊員たちが座る。そして、さり気なく質問攻撃されるのだ。その内容は講義のことからプライベートなことまで。しかも、時には自分たちの事だけでなく、堂上達他の上官のことまで問われる。
「・・・プライベートな質問には一切答えない」
と、言い切るものの郁はついうっかり誘導尋問なイエス、ノーに答えてしまったりするのだ。

「休みの日は何をされてるんですか?!」
「ん、掃除洗濯読書」
「ふーん、その後デートですか?」
「それは内緒」
辛うじて質問をかわせても、ポーカーフェイスが苦手な郁は表情でわかってしまう。新人隊員からすると、怒声を響かせている女鬼教官が、犬に頬を舐められた時に見せていた困惑しながら魅せた潤んだ瞳と彼を撫でたときの愛らしい表情を披露してしまったことで郁の人気はうなぎ登りなのだ。




「まさにギャップ萌え、ってやつ?」
早々に食堂から引き上げて、教官控室へ戻ると新人の質問攻めから逃げてきたことを察したように小牧にからかわれた。
「他人事だと思ってますよね、小牧教官。でも教官達のこともガッツリ聞かれるんですよ?!」
ったく、今の新人は怖いもの知らずっていうか神経が図太いっていうか。
「新人で上官にドロップキックかましたお前も十分怖いもの知らずだったけどな」
「言うかな今ソレっ!」
ツッコミをいれてきた手塚に郁は当然のように食ってかかる。あの頃の自分をからかわれると恥ずかしい。
「どうにか、ならないですかねぇ・・・」
「まあ、新人が一番最初に接する上官が錬成教官だからねぇ。純粋な興味もあるだろうけど、慣れない訓練や寮生活で不安な面もあるだろうから、情報収集とか情報交換とかは頻繁にしておきたい時期じゃない?配属が決まれば落ち着くでしょ」
小牧は毎年のことだから、という風体で慣れたもの、という様子だったが最後にはフォローをしてくれた。
「あんまり度が過ぎるようだったら、ちゃんと俺か堂上に言ってね?」
はい、と答えたものの、それは落ち着く様子がなく、むしろ郁達の頭を悩ませる方向に向かい始めた。




「堂上教官って、彼女いるんですか?」
ストレートに訊かれるとごまかすのに困る。上官のプライベートは知らない、と言ってしまえばいいのだが同じ班の班長なのでそれも嘘っぽい。上官のプライベートに答える義務も権利もない、と答えるが、実は堂上の名前が出ただけでドキリとしてしまう自分がいるのだ。
--------やっぱり、堂上教官ってモテるよね。
新人たちには険しい表情しか見せていないはずなのに、過日ジェイクが乱入する騒動の時にみせた笑顔にやられた隊員が多いらしく、その人気はうなぎ登りらしいのだ。まあ、確かに郁も堂上の笑った顔を初めてみたときは、普段の険しい表情とのギャップに驚いたのは事実だけど。
そもそも、堂上になぜ彼女がいないのか。
合コンとかで積極的に彼女探しをしている様子でもなく、図書隊員と浮いた話があるわけでもない。となると、やはり意中の人は周りにはいなくて、新人隊員のような新しい顔ぶれに心奪われることもあるのかもしれない。

いつも班員として部下としてすぐそばにいるのに、それはあくまでも業務上でしかならない。そばに居られなくなるなら今のままでいい、って自分で決めた。だけど、あたしはプライベートで堂上の隣に立つ人ができた時に平常でいられるだろうか?
--------無理だよ!
だって、堂上教官を誰にも渡したくない、って思ってしまった。そう思いながら業務でだけでも隣に立っていたいと思う狡い自分は醜い。
『それが恋心ってやつじゃないの?』
柴崎ならきっとそう言う。本当の恋愛は綺麗な感情だけじゃないと。




堂上と小牧は新人教育全体の調整などもあるから、訓練や指導をつけているだけの郁たちより忙しい。
食堂で昼食をとることもままならず、食べながら小会議室で仕事をしていることもしばしばある。だが、郁と手塚に気を使ってか食堂で食べるときは一般食堂に姿を見せるようになった。『あっち(士官食堂)でなくて大丈夫ですか?』と訊いたことがあるが『別にどこだって構わん』と一蹴された。

だが、堂上達が一般食堂に現れると一際食堂がざわめきだす。やはり特殊部隊のエリートで教官職も務める若手士官という二人は何かと目立つのだ。
『あ、俺は彼女いるのか?って訊かれたらいるってはっきり公言していいから、堂上はどうする?いることにでもしておく?』と小牧にからかわれたとき、堂上がぶすっとしていたのを思い出した。

「確かに今年の新人はやけに積極的だよねぇ。まあ、それも堂上が仏頂面を押し通せなかったから?」
「へ?ってどういう事ですか?」
「黙れ小牧!」
「ほらジェイクが笠原さんに飛びついてきた時、堂上はジェイクを嗜めたでしょう?あの時にね、ほら」
怒号と難しい表情しかみせた事のない鬼教官が、シェパードに向かって笑顔全開だったのを新人ががっちり見ていてそこから人気はうなぎ登りらしい。
「・・・それで、堂上教官の周りは賑やかなんですね」
「そうそう、教育期間が終わったわけでもないのに、班の飲み会に誘われたり、合コンセッティングして欲しいとかいろいろあるようだよ」
まあ、俺はキッパリ彼女持ちって言ってるからそこまでうるさく付きまとわれないけど。堂上も囮捜査ならぬ囮彼女でも作ればいいのにね、と小牧は笑う。この人にかかると、ほんと堂上教官は不憫だな、と時々思う。
「・・・囮彼女とか、別に誰か捕まえるわけでもあるまいし」
「じゃあ、必要なのは番犬かな?」
「あっ、あたしまた堂上教官の犬になってあげましょうか?!」

・・・・・郁のよく通る声が、食堂内に響き渡った。そして一瞬の沈黙が場に広がる。

「あ、アホか貴様っ!!!!だからその物言いをやめろ!!!!」
久しぶりに盛大なげんこつが落とされて、だってー、と涙目で堂上を見上げる郁をみて、その愛らしさが堪らず堂上は慌ててお茶を飲み干し、小牧は完全に上戸に入った。

「いつまでたっても教官は気苦労が耐えないね、堂上」
誰のお陰で気苦労が増えてるんだ。膨れる郁に、仕方ないとばかりに先日のジェイク同様のご褒美を与えた。荒っぽい手つきでぐっしゃぐしゃになるまで。

まあ、互いに番犬として周りを牽制しておけばちょうどいいかな、と思ったのは小牧の心の弁。






Fin

(from 20131019)