+ Delay in Love 2 +    堂郁上官部下期間(稲嶺誘拐後あたり)  ◆激しく原作逸脱注意+オリキャラあり◆


 

 

 

堂上教官と泊まったのは普通のビジネスホテルだった。
何にも覚えてない、というのも恥ずかしくて、だけど教官に言い訳とかされたくなくて。「誰にも言いませんし、後悔もしてませんから気にしないで下さい。あたしは先に帰寮しますから教官は別に戻って下さいね」とだけ言って、そのまま目を合わすこともなく部屋を出てきた。とにかく堂上教官からの言葉は何も聞きたくなかった。だから寸分の時間も与えずにその場を逃げ出した。


その日は公休だったので、一人寮に戻って、ベッドで自分の体を抱きしめながら昨晩の事を思い出そうしてみた。ほんの少しだが下半身に経験したことの無い違和感があるような気がしていた。
躯は何かを感じたのかもしれないが、記憶には何も残っていない。
教官がどんなつもりで自分を抱いたのか、あたしはどんな気持ちで抱かれたのか、どちらも解らないまま。

でも、きっと教官にされたことが嫌ではなかったことは確かだと思う。
それでも、何も覚えていない自分が情けなくて悲しかった。
教官がベッドの上で何かか睦言を奏でてくれたのかもわからない。それでも抵抗した記憶も痕もないようなので、自分はその行為に同意したのだろうと思う。
あたしもいい歳だし、処女なんて後生大事にとっておいたからってどうなるものでもない。寧ろ敬愛する上官が最初の男(ひと)でよかったんだと、思うようにした。
何も覚えていないハジメテだったのは淋しいけど、これで"経験皆無の重たい女"から卒業したと思えばいい、と。

目を閉じたときに目尻から涙がこぼれたことは気がつかなかったことにして、今日はこのままゴロゴロしていよう、と決めて布団をかぶった。






その翌日は少し早めに出勤した。前日昼間からたっぷり眠ていたので、寝坊することはなかった。
堂上教官は必ず早く出勤しているから、もしかしたら誰もいない間に少し話が出来るかもしれない、と思って。
「おはようございます」
「おはよう」
いつも以上の元気と笑顔で挨拶をした。応対した声こそいつも通りだったが、教官の目はなにか言いたげにあたしをみつめた。教官の口から何かが語られる前に!とあたしは先に口火をきった。
「あたし堂上教官の事好きですし、尊敬してます。これからも堂上班に居たいんです。だから教官はあたしに何も言わないで下さい。お願いします」
昨日ずっと考えていた一言。
敬愛する堂上教官に酔った勢いでで女を抱いた言い訳なんてされたくない。教官だって男だから・・・、寧ろあたしを一瞬でも女だと思ってくれたことに感謝しようと思うことにしたのだから。
せっかく女に見られたんだったら、覚えていたかったなぁ、あはははは、って笑い飛ばせる余裕はさすがにないので、自分の言葉だけ告げたあたしは「コーヒー入れてきます」と声を掛けて逃げるように事務室を飛び出した。

二人分のコーヒーを入れて給湯室から戻ると、他の隊員も出勤してきていたので、二人共その話に触れることはなかった。

それからあたしは業務中以外で堂上教官と二人きりになる事を避けるようにしていた。たまたまなのだろうが堂上教官とバディを組んで警備に就くこともなく、訓練やら書架やらの任務が続いてわざと避けなくても教官と話すような時間はなかった。そうして一週間、二週間と月日が過ぎ、館内も特別展示や講演の催し物などが続いていたので、通常よりあわただしくていつしかあの日の事を話し合う気持ちすら、お互いから薄れていた。


あの日の飲み会から一ヶ月ほど経ったとき、あたしと堂上教官の初めての夜は本当に無かったことになるんだな、とそっと一人で泣いた。






3へ


(from 20130420)