+ おくさまは18歳 18 +  パラレルSS/のりのりのターン

 

 

 

 

 

大学生と、陸上選手と…篤さんの奥さん。
三足のワラジ生活はあわただしいけどやっと軌道に乗ってきた、と思う。他の子達みたいにバイトはしていない分、しっかり奥さんと勉強------特に、司書の勉強はしっかりやらないと、と思う。時には篤さんにみてもらっている位なんだし、優秀な柴崎や手塚に置いて行かれないようにしないと、と。






陸上部では種目が一緒でない子とかは記録会や大会の時しか会わないことも多い。大会後はお腹も空くから、大概コーチも交えてファミレスする。郁の大学は陸上で名を馳せている子が多いので、不祥事対策で部としての飲み会は禁止されているのもあるが。

「笠原は、このところ記録も伸びてるな。お前だけ大学寮じゃないから、栄養管理とか心配してたんだが、大丈夫なようだな」
一緒のテーブルに座った短距離のコーチにそう言われた。
「は、はい…。あ、兄も体調管理が必要な仕事なので、一緒に考えながら作ってます…」
「ほう、お兄さんも料理するのか?最近は弁当男子、なんて言うくらいだから、男が料理するのも普通なんだろうな。だけど、お前の歳で兄さんと仲が良いなんてなぁ」
めずらしいな、と言わんばかりでコーチが話しかけてきた。
「べ、別に、普通デスヨ…」
そう言いながら、篤の事を想像して真っ赤になってしまった。や、やばい、とあわてて本当の兄貴達に頭の中で切り替えた。兄ちゃん達となんて、料理一緒にしたことないよ!
「イヤ、普通じゃないですよー、だって笠原、練習の後ご飯行こう、っていうと、『夕飯作らないとだから帰る』って言うんですよー。ブラコンか、兄貴が恐ろしく厳しいか、のどっちかですよねー」
同級生の中距離の女子が口を挟んだ。
「怖い兄貴がいるんじゃ、彼氏も作れないなぁ」
「でも、最近の笠原、ちょっと女っぽいときあるよな。太ったわけじゃないんだろ?」
同じ短距離の男子の先輩が畳みかけてきた。
「失礼な!太ってなんかいませんよね、コーチ?」
毎日測定結果を提出してるんだから、コーチはわかってるはずだ。
「あたし、よくいる普通の短距離走者ですよ?骨っぽくてぺったんこで、女らしさからほど遠いのはみんなが一番よく知ってるじゃないですかー!だ、だいたいあたし生まれてからモテたことないんですから!」
思いが通じ合ったのは、後にも先にも篤さんだけだ、とは言えない。
そして自分が話題の中心になっている状況が困る。なんかボロが出る前に早くこの話題を終わりにしたい。
「あー、でも笠原さんってちょっといいよねー、って言ってる男子、クラスに居たよー、司書講座で一緒なんじゃない、あんたと」
学部が違うのにあたしのこと知ってるなら、そうかもしれない・・・。
「ふうん、そういやー、笠原に彼氏がいるかどうか、って聞いたこと無かったよな?」
彼氏!その質問が一番困るっ。
篤さんは公称兄だけど、あたしにとっては男の人は篤さんだけだし、でも彼氏って言っちゃうと問題が・・・だけど、この前、司書講座の女友達には彼氏の相談したんだよね・・・。
いや、でも陸上の為に結婚してること隠してるんだし!ああややこしい!

「か、彼氏なんていないですっ」
悩んだ結果、結局、そう公言してしまった….。







*      *      *







郁と一緒に住み始めて約3ヶ月になろうか。お互いのペースも、家事の分担も何となくつかめてきた。特に家事は当番を決めているわけではないが、時間が取れる方が買い物をして帰ってきたり、先に炊事をしていたりと、メールで連絡をとりあってお互いをフォローしている。
駅から歩いてくるから、郁が買い物してくる事の方が多い。
食料品はほとんどスーパーを利用するが、たまに気が向くと商店街の個人商店で購入してくることもある。そして人当たりもよく、愛想のいい郁は、笑顔をたくさん振りまいてお店の人を褒めまくると、おまけしてもらえるんだよ~、などと嬉しそうに話してくれた。


俺が公休の日に、郁が休講になったからと早く帰ってきたときは一緒に買い物に出かけた。
その時、商店街の魚屋の親父と楽しそうに話している郁がいた。
「へえぇ、今日はお兄さんと一緒なのかー、図書隊の人かい?」
嫌な顔をしたつもりは無かったが、自然と眉間に皺がよっていたのが自分でもわかった。
「お兄さんは格好いいけど、無口なタイプなんだなぁー。郁ちゃんはケラケラ笑うのに、兄妹でもずいぶん違うもんだ」
郁の屈託のない笑顔が、こんなところでも人気を呼んでいるとは思いもしなかった。
そう思うと、お前はいったい大学ではどんな風なんだ、どんだけ愛想をふりまいてるんだ?!と堂上は急に不安になった。
「今日もおまけしてもらえたねー。あたしも陸上部だし、兄も戦闘職種だから、たくさん食べるんですよーって前に言っておいたんだー、親父さんに」
おまけがもらえたことが嬉しいんだとばかりに、スキップでもしそうな勢いのご機嫌さだった。
隣を歩く俺は、ますます郁がどんな風に外で過ごしているのかが気がかりになった。








「郁、お前、学校で友達とか…どうなんだ?」
そう堂上に問いかけられた時、郁はカレイの煮付けを食べながら、魚屋のおじさんにもらったおまけのサザエをしっぽまで綺麗に貝殻から出そうと格闘中だった。
「へ?どうって?」
「俺はこの前の柴崎と手塚しか会ったことがないが…他に女友達とか…男友達とかな」
「うん、同じクラスでお昼一緒したりする子はいるよ。取っている授業が違うときもあるから、いつも一緒ではないかな。柴崎たちは司書講座のは一緒だけど、それ以外でもお昼待ち合わせすることがあるよ」
授業の後はあたし練習があるから、クラスの子と一緒に帰ることはほとんどないなぁ、練習の後はご飯作らなきゃ、ってまっすぐ帰ってくるし。
「どうしたの、急に?」
ご飯を美味しそうに口に運びながら、郁が逆に聞いてきた。
「いや、普通の大学生活、ってどうなのかと思ってな」
堂上は図書大出身で全員が寮生活だったので、自分が体験してきた大学生活とはずいぶん様子が違うようだと思った。
「男子学生とも一緒に行動するのか?」
「んー、1年はまだゼミとかないから、特に仲の良い男子とかはあんまりないかな。あ、でも秋の文化祭はクラスでも何かするらしいけど」
そこまで話して、郁はようやく何かに気づき、ちょっとした悪戯心が芽生えた。

「…篤さん?もしかして、やきもちやいてくれた?」
郁は箸を止めて、器用な上目遣いで堂上を見つめた。
しばらく堂上は押し黙っていたが、あきらめて口火を切った。
「ああそうだ。最近のお前はどんどん綺麗になっていくから、心配なんだ」
郁を抱いてから、あの時に見せる仕草や反応が想像していた以上に可憐で可愛くて、ますます郁にのめり込む自分がいた。くったくなく人に笑いかける表情と、くるくると大きく見開かれる瞳、普段見る郁と、抱かれる時に俺の瞳だけ写る妖艶な郁――――。

学生時代の俺は、女を追うタイプではなかったし、それほどセックスに執着するタイプでもなかった。好きだという感情をもった女と付き合っている時は、それなりの誠意は尽くしてきたと思っていた。

だが郁に出会ってからは、女に対する価値観がすべて覆された。
女らしくないと、郁はさんざんいうが、俺にしてみたらお前以上の女はいない。
まっすぐで素直で、潔く笑い、時にはほろほろと泣き、感情豊でありながら、誰よりも他人を思いやって-----------そして、今は誰よりも俺を大事にしてくれる、愛してくれる、そしてすべてをさらけだしてくれる。
俺にはお前以上の女はいないんだ、心配して当然だろう?!

「篤さん、あたし、篤さんしか見てないし、篤さんが側にいてくれたらそれでいいの」
クラスの子は同級生、ってだけだし、陸上の子は同志、って感じかな。
それ以上にはならないし、どっちか選べ、って言われたら、今は絶対篤さんを選ぶ。

郁は俺の目をみてきっぱりと言った。そして、にこりと笑って---------。
「でも、やきもちなんてやいてもらったこと無かったから、なんかうれしいかも」
うふふ、と含み笑いを浮かべた。だっていままで撃沈ばっかりだったんだもん、篤さんだって知ってるでしょ?ましてやこんな身体つきなんだよ?どこが女らしいんだか…と。
やはり何もわかっていない。

お前を女にしたのは俺だからな。
そう囁いてやれば郁は理解するだろうか?

「・・・・・無駄だな」
「何が?」
「いや、いい。郁、お前は俺だけのものだからな」
「うん・・・そうだよ。どうしたの急に?」
ちょうど食事が終わったので、席を立つ。柔らかい髪に掌をぽんと落とし、耳元に口づけるようにして囁く。
「・・・・・早くお前と一つになりたい」
郁はその堂上の低音の色気ある声に刺激を受け、ドキリと心臓が跳ねて箸を落としそうになった。
「・・・・・篤さんのバカ・・・」
体の中が震えるような感覚が駆けめぐり、抱かれるときに見せてくれる篤の強い眼差しを思い出して、郁の身体は急に体温を上げた。
さっさと片付けするぞ、とばかりに堂上は台所に立ち、腕まくりして皿洗いを始めた。

 

 

 

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(from 20121025)