+ おくさまは18歳 2 +  パラレルSS/のりのりのターン

 

 

 

 

 

高校三年生の秋。


その出会いは本当に偶然で、突然やってきた。
久しぶりに出向いた地元の書店で、良化隊員の検閲からあたしを助けてくれたのが、その人だった。そしてその日から、ぼんやりと描いていたあたしの人生は大きく変わっていった-------。


「笠原!早くしないと練習に遅れるよ」
「うん」
陸上推薦で入学した大学。
入学式が終わったと思ったら、すぐに新入学生の研修合宿に全員が参加しなくてはならない。
普通の学生は、これからサークルやゼミを決めるのだろうけど、陸上部と決まっている郁は、本格的な練習が始まるまでは毎日ウォーミングアップ程度の運動をコーチから言い渡されている。

官舎への引越を3月中に済ませておいて良かった。
こんなに大学生が忙しいなんて、思っても見なかった。
「・・・ますます篤さんの奥さんする暇ないじゃん・・・」

篤さんは撃沈がお約束だったあたしの恋愛遍歴のなかで、初めての恋人であり・・・最後の恋人だ。何よりも愛する人が一番大切だなんて感情、初めて知った、知らされた。そんな恋情をぶつけられて幸せじゃないはずがない。あたしから篤さんに返せるモノなんて、ほんの少ししか無いことはわかってる。奥さん、なんていっても、まだ高校出たての大人未満だ。
だからこそ、早く篤さんが喜んでくれるような奥さん業ができるようになりたいのにな・・・





     *     *     *




関東図書基地の新年度もまたあわただしい。
なにせ新入隊員は全員ここで研修を行うためだ。

そして堂上にとっては、昨年よりさらにあわただしい年度末となっていた。
新年度から図書特殊部隊への異動の内示をうけていた。
内示は4月1日付だったが、新入隊員と重なると何かと面倒だという理由で、実際には3月から既に防衛部のシフトを離れて特殊部隊内で勤務に就いていた。

そして同時に官舎への引越をした。
元々寮生活が長い堂上はたいして私物が多いわけでもない。大きな物は官舎用に買いそろえるから、寮にあった荷物は公休をつかってほとんど自分の手で運び出したので引越の事実も同室の小牧ぐらいしか知らないだろう。


「堂上ももうすぐ新婚さんかぁ」
だいぶ部屋の中が物寂しくなってきたなあ、と小牧がほくそ笑む。
実は堂上が結婚することはほとんどの隊員が知らない。
知っているのは官舎の申請等をした名前も覚えていない総務部長と特殊部隊の隊長、副隊長、そして小牧だけだ。

「どう?郁ちゃんとの愛の巣は片付いたの?」
「・・・お前、言い方がいやらしい」
堂上はすでに空になりかけていた缶ビールを飲み干した。
「・・・言うなよ?」
「わかってるって」
「いいなぁ、可愛いお嫁さんもらって」
「・・・お前も早く結婚すればいいだろう」
「堂上、相当通ってたもんなぁ、茨城まで。よく彼女の親御さんを説得できたよなぁ・・・」
茨城の小さな書店で、彼女を助けた。忘れることができなかった、彼女------郁を探し、再会してから、俺は初めて会った時以上に郁に惚れていった。この先、郁以上の女に出会うこともなければ、郁以上の女も必要がない。今、ここで捕まえないと俺は一生後悔する、そう思った。

異動も結婚も引越も全部一度にしちゃうんだから、お前凄いよ。
褒め言葉とはとても思えない小牧の一言に、堂上は黙り込んでしまった。


あの時出会ってしまった運命の女と、これ以上離れていることなんて考えられなかった。
-------------郁を助けたあの日から、その償いも報いも、すべてを受け止めて、そして手に入れたんだ、あいつを。

 

 

 

 

 

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(from 20120830)