+ おくさまは18歳 26 +  パラレルSS/のりのりのターン

 

 

 

 

 

大学生の遅い夏休みが終わって、日常に戻ってから1週間ほど。
後期になって初めての司書講座の日は、柴崎と手塚と学生食堂でランチした。

「ふうん、よかったわね、旅行楽しかったみたいで」
「うん、すっごい綺麗な海だったー!あんな海の色初めて見たよぉ!」
堂上と郁の実質新婚旅行ともいえる沖縄旅行は天気にも恵まれて、郁はずいぶん良い色になっていた。
「日焼け止めはこまめに塗ったんだけど、夏休みは陸上の練習もあったから、やっぱり焼けちゃうんだよねえー」
本日の定食をほおばりながら、郁は満面の笑みで嬉しそうに話す。
堂上との事を話せる人は柴崎と手塚しかいないのだ。
「手塚はどこか出かけたの?」
柴崎は、夏休み中家庭教師のバイトも休んで実家に帰ると聞いていたのでメールで時々やりとりをしてたが、手塚に会うのは司書講座の懇親会以来か。
「ああ、セブ島にな」
セブ島って何!?それ何処にあるの?!と、郁の目は丸くなった。
「だ….誰と?」
「家族とだが」
あ、そう….。実は手塚の事は郁自身はよく知らない。何かを鼻に掛けるような態度を取ったりはしないが、育ちは良さそうだ、と前々から思っていた。彼女と、とかと一緒じゃないんだ、旅行。

柴崎は手塚の事を何処まで知ってるんだろう?この二人ってどんな付き合いなのか?
と思って、実は9月初めに帰京した柴崎と洋服を買いに出かけたときに、思い切って聞いてみたのだが…
「ん、そうね、仲の良い同級生、じゃない?」
とあっさり言われた。
「まあ、たまにご飯をごちそうになる、間柄?にでもしておく?」
と意味ありげに柴崎に言われた。やっぱり郁には彼氏彼女でもない、という二人の中にある上下関係?の様なものがよくわからない。でも手塚は嫌な顔をすることもなく、じっと女同士の話も聞いていたりする。

「笠原は、ずっと練習か?」
「うん、そうだね、さっきの旅行と、お盆休みだけ実家に帰ったけど」
そう、実家に3日程帰った。郁は気乗りしなかったが、堂上が嫁として家を出たからこそ行ってこいと言ったので仕方なく、だった。2日目には堂上も来てくれたので、それほど気まずい事も無かったが、母は学生で結婚することを最後まで良しとしてくれなかったので…実家に帰るとぎこちない雰囲気になるのが堪らなく嫌だったのだ。

「でも、あんたアルバイトもしてないし、夏休みは結構堂上さんと出かけられたんじゃないの?」
「うん、たまにはちょっとデートっぽいこともできたかな・・・」
そうなのだ。陸上の練習しかないから、堂上が公休日の日は終わる頃に学校まで迎えに来てくれていた。部室の側で待ち合わせすると部員と鉢合わせになるので、たいがい大学図書館で待ち合わせした。夏休みの大学なんて、就職活動が忙しい3年生か卒論に取りかかり始めている真面目な4年生ぐらいしか出入りしてない。同級生とか知り合いに会わないならいいよね、っということで学内で待ち合わせしているのだが…郁にとってはちょっとした学生デートみたいで、それが嬉しいかったのだ。
「ふうん、じゃあ、夏休みは堂上さん学生に戻ったみたいだったってことね」
「ん、そうかな」
堂上の事となると、頬を赤らめて少し照れた様子をみせるものの、最後は隠しきれず嬉しそうな表情で一杯になる。きっと、その時のデートの事でも思い出していたのだろう。そんな満面の笑みを無防備に見せつけちゃって・・・
と、その可愛い笑顔を眺めつつも、内心少し心配もしていた。

「よ、笠原ちゃん久しぶり」
そう声を掛けられてテーブルに座ったまま声の主を見上げた。
名前は全く覚えていなかったが、司書講座の懇親会の時に郁にずいぶん熱心に話しかけていた男だった。
「あ、どうも・・・」
きちんと育てられていたからか、声を掛けられて無視と言うわけには行かなかった。
「すごくいい顔で笑ってたけど、夏休み良いことでもあったの?」
「え、ええ、まぁ・・・」
しどろもどろになりながら肯定した。柴崎と一緒だったからまだ良かったけど、1人だったらまた相手に押されて困り果てていたかもしれない。
「ずいぶん焼けてるけど、陸上忙しかったんだぁ?」
「うん、まあ・・・」
「この前言ってたさ、内輪での司書講座の勉強会、本当にやることになったから、笠原さんたちも一緒にどう?」
男にそう言われ、答えに困ったのと、この場から上手く抜け出すにはどうすればいいかで、困惑の視線を柴崎に送る。柴崎は仕方ないわね、というためいきを小さくついてから、表情を切り替え、極めて営業的な微笑みで同級生に目線を移した。
「笠原は放課後に特別レッスンを受けているから大丈夫みたいよ」
ま、確かに司書講座の復習はずいぶん厳しく特訓させられてる、と郁は言ってたけど・・・
ついでに愛の特別レッスンもあるんじゃないの?と、ここで口に出すわけにもいかず。

男に牽制の言葉をかけつつ、柴崎は手塚に目配せをした。
手塚は柴崎の言わんとすることをすぐさま理解し、すすっていたお茶を飲み干して立ち上がった。
それに合わせて柴崎も荷物を抱えて、トレイを持った。
郁もあわてて、柴崎と手塚に続こうと立ち上がった。
「あ、じゃまたあとで」
相手が何か返してくるかどうかとかはお構いなしに、郁もそそくさとその場から離れた。


トレイを返却口に戻しながら、柴崎が郁に言った。
「ねえ、堂上さんの次の休みっていつ?」
「え、あっ、たしか2日後かな」
その日も司書講座がある日だ。
「じゃあ、その日もお昼一緒しましょ。ねえ、笠原、その日さぁ、この前買った服で来なさいよ」
「へ?」
「そろそろ秋めいてきたし、堂上さんが迎えにきてくれるなら、そのままデートするのに良いんじゃない?」
「う、うん、デートって、迎えに来るかもわかんないよ?」
「デートじゃなくても良いわよ。せっかく見立てた服だから、あたしが見たいだけ。あ、なんならあたしも着てくるから」
普段はパンツにカットソーとかジーンズに可愛い目のTシャツとか。練習もあるし、通学着にそんなに気を使った事がない。
柴崎が着てくると言うなら、じゃあ…と、そんな気持ちになった。
「うん、いいよ」
じゃあ、5限でね、と言われつつ、柴崎たちとは別れた。





その2日後。
公休だというのに、堂上は隊で呼び出されたといって、朝から普通に出かけていった。午前中で用事は終わるから夕方は学校へ迎えに行く、と言い残して。
郁も朝の食器洗いを済ませるとすぐに着替えて学校へ向かった。約束通り、今日は柴崎見立ての服だ。
「いつもと違う服だし…化粧っけが無いのも何だよね…」
通学に電車を利用するので、身だしなみの一つとして、軽くではあるが、化粧くらいはするようにしていた。結局練習の時には落としてしまうのだが。だからちゃんと化粧も一通りはして出てきた。


午前中の授業が終わってから、柴崎達と合流した。
柴崎が着てきたのは少しレトロモードなミニワンピに模様入りカラータイツの組み合わせ。飾りベルトが少しローウエストについて、胸元のカットがおへその上くらいまでV字に入っていてシンプルブラウスをあわせているけどすごく斬新だった。
ちゃんと秋モードを取り入れていておしゃれな上に美人だと来ているから…やっぱり目立つなぁと、自分の方へ向かってくる姿をみて感心していた。
「笠原だって似合ってるわよ、あたしの見立て通りね」
郁は千鳥格子の真っ赤なショートパンツとオーバーニーの組み合わせ。だがソックスじゃなくてタイツなのはミソなのよ、と柴崎は勧めたときにほくそ笑んでた。柄タイツのオーバーニースタイルだから少し素肌が透けるのが大人っぽくていいのよ、と。ハデじゃない?っとその時は食い下がったけど、模様のせいか意外と落ち着いて見えるのでホッとしていた。
当然、オーバーニーの上は生足だ。
「脚もほんっと綺麗だけど肌もきれいなのね、隠さないでもっと出した方が可愛いわよ、笠原」
「うわっ、学校で一番とか二番とかの美人にそんな事言われても、からかわれてるとしか思えないってば」
柴崎の少し後ろに立っていた手塚は、この二人が今ここで注目を浴びているのがわかっていた。
そんな状況を楽しんでいる風に見える柴崎をみて、郁とは違う意味で小さくため息をついた。
「・・・・・・お前、笠原にあんな格好させて・・・わかってるのか?」
回りには聞こえない声量で柴崎に訊いた。
「・・・・・・わかってるわよぉー。だって、あの子、ほんと可愛いんだから」
今日は、この二人からは離れられない、ってことだな、と自分の立場を理解して、手塚は二人には気づかれないように天を仰いだ。

 

 

 

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(from 20121122)