+ おくさまは18歳 37 +  パラレルSS/にゃみさまのターン

 

 

 

 

 

堂上の意識が戻って数日。すぐに一般の病室に移った堂上に24時間ずっとついていたい気分だったが、大学もあるし、さすがにそういうわけには行かない。
ただ陸上の練習だけは自主練だけにしてもらった。“二人で住んでいる兄”が倒れたのだから、周りもあっさり納得してくれたのだ。
だから、自主練を終えると郁はすぐに病院へ向かう。





堂上が意識を取り戻した朝、帰路についたばかりだった堂上の母親は、意識を取り戻したと連絡すると、すぐに顔を見に戻ってきた。命に別状はないとわかっていても、郁と同じくずっと心配だったのだろうと思う。
まだしっかり話せるわけではない堂上と、二言三言会話を交わす。
「郁ちゃんがいるから大丈夫よね」
「……ああ」
「じゃあね、郁ちゃん、篤のことお願いね」
そう言い置いて、またすぐに帰ろうとする。
もう少しいなくていいんですか。そう聞きたかったが、意識を取り戻す前と同じことだ。
こんなあたしなのに信用してくれている。
そう感じさせてくれることがとても嬉しい。


寿子も同じようなものだった。
目を開けて話せるようになった堂上の顔と、何より緊張が解けた表情の郁の顔を、寿子はほっとしたように見つめた。そうして、もう帰ると言う。
「せっかくこっちまで来たんだから、もう少しいてくれたらいいのに」
郁は引き止めて、堂上も頷いた。
けれど、寿子は首を横に振った。
「郁はもう大丈夫ね」
そう穏やかに笑って、堂上に「郁をこれからもお願いします」と頭を下げて。

寿子は自分たちのことを一人前の夫婦と認めてくれたのだ。
そう思って郁はまた少し泣いた。







今日も自主練を済ませて、速攻で帰宅した。
病院は図書基地の近くなので、官舎に着替えを取りに戻ってから病院に行くのだ。

「あれ?柴崎?」
堂上の病室の前まで来ると、そこには柴崎の姿があった。
「お見舞い来てくれたの?一人?」
「ううん、手塚も一緒に来たわ。でもなんか堂上さんと二人で話したそうだったから、二人にしてあげてるの」
「へえー、手塚、なんか相談でもあったのかなー」
「さあ?でもあんたの次に堂上さん大好きっ子だからねー」
柴崎がケラケラ笑って、郁も「そうかも」と笑った。

と、柴崎は急にやさしく郁の肩を叩く。
「あんたはがんばったわね」
「あ……うん……」
「堂上さんが何ともなくて本当に良かったわ。……あんたがへらへらしてないと、あたしも楽しくないもの」
「……へらへらって」
反発する声は涙混じりになった。軽い口調とは裏腹に、その表情から柴崎が心底郁を心配していてくれたことが伝わってくる。そういえば、あの日堂上の両親が来るまで、ずっと郁のことを抱きしめるようにしていてくれたのは柴崎だった。
「ありがとう」
郁は目に涙を浮かべながら笑った。
「やあねえ、あんたがうじうじしてるとうっとおしいってだけの話よ」
「……うん、わかってる」
柴崎にいつも助けられている。男の子に声をかけられてもうまく対処できない郁を何だかんだ助けてくれるのも、いつも柴崎だ。

「本当はあんたたちみたいな幸せそうなカップルに付き合うの、趣味じゃないのよ?」
柴崎はそっけなく言った。
「でもなんだかね、あんたと堂上さんにはずっと幸せな姿見せててもらいたいのよ」
真摯なその言葉に郁はしっかりと顔を上げる。
「……うん、あたし、がんばる。今回のことで色々よくわかったよ。あたし、篤さんとの毎日をちゃんと大事にしたいの」
そう言うと、柴崎はにっこりと笑った。
「良かったわね、そんな大事な人に出会えて」
言いながら、ふうとため息をつく。
「いいなぁ。あたしもそんなふうに幸せになりたいなぁ」
思わず本音が零れ出たような柴崎の瞳には、きっと誰かが映っている。
「なれるよ、柴崎は。絶対。意地さえ張らなかったらさ」
郁はそう言って、柴崎の背中をとんと叩いた。



間もなくして手塚が出てきた。その顔は心なしか赤いように見える。二人は堂上に挨拶をして、並んで廊下を歩いていく。
その後姿を郁は微笑ましい気持ちで見守った。
「柴崎がね、あたしたちみたいに幸せになりたいなんて言うの」
郁は少し照れながら堂上に話しかける。
「俺たちみたいにか……」
堂上もくすぐったそうな顔をした。
「手塚も似たようなこと言ってたぞ」
「え?なんて?」
「俺も頑張ってみようかと思うってな」
「うっそぉ。あの手塚が!?」
郁は興奮で目を見開く。
手塚が動くまで、まだまだあの二人はどうにもならないと思っていた。けれど、手塚が行動を起こしたら、柴崎はちゃんと素直になるだろうか。
「じゃああの二人が幸せになる日は近いのかなあ」
「ああ、そうだといいな」
堂上も感慨深げな表情を見せる。


「ねえ、篤さん」
「ん?」
「あたしたちみたいに幸せになりたいなんて言ってもらえるなんてね」
「……ああ」
「あたしたち皆に祝福されてるんだね」
「ああ、そうだな」

まだ18歳と23歳だ。子供みたいな夫婦なのかも知れない。知らない人にはきっと夫婦には見えないだろう。
でも、これからもずっと信じあって、支えあって生きていきたい。

堂上が郁の手をぎゅっと握る。
郁もその手をぎゅっと握り返した。






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(from 20130107)