+ おくさまは18歳 1 +  パラレルSS/にゃみさまのターン

 

 

 

 

「堂上篤、汝は笠原郁を妻とし、その健やかなるときも病めるときも、これを愛し、これを敬い、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います」
「笠原郁、汝は堂上篤を夫とし、その健やかなるときも病めるときも、これを愛し、これを敬い、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います」

堂上が郁のベールを上げて、二人は互いを見つめた。
神父だけが見守る中、静かに誓いのキスをする。
一瞬触れ合った唇を離すと郁は恥ずかしそうに笑った。堂上もその顔を見てやさしく微笑む。



チャペルの前の小道からは海が見えた。二人は手を繋いでそこを少しずつ歩く。
「篤さん」
「なんだ」
郁を見つめる堂上の瞳は穏やかだ。
「あたしたち、夫婦になったんですよね」
「ああ、そうだな」
「なんだか信じられなくて」
そう呟く郁の瞳には薄く涙が滲んでいる。
「そうだな、俺もだ」
堂上も感慨深げに答える。
二人だけの結婚式。この日を迎えられることを俺はどれほど待っていたか。
「……綺麗だな」
郁の涙を指で拭ってやっていると、胸の中で思っていたことが思いがけず言葉になって零れ出た。郁は眼前の景色を眺め、「そうですね」と頷く。
「いや……、お前が、だ」
いつもならそんなことは言えないのに、こんなにも素直になれることを堂上は自分でも意外に思う。郁もきょとんとして堂上の方を見た。
白いドレスに包まれた郁はいつもの何倍も美しい。なのに子供のような表情を見せるのが堂上には微笑ましく愛しく思われた。壊れ物に触れるかのように頬をゆるゆると撫でると、郁はくすぐったそうに目を細める。
「これからは、ずっと一緒だな」
「はい、よろしくお願いします。篤さん」
どちらからともなくぎゅっと手を握り合って、目の前の光景を眺める。
ふわりと微笑む郁の肩を堂上はそっと抱き寄せた。







     *     *     *







「きゃあああああ」
耳をつんざくような悲鳴が聞こえて、堂上ははっと顔を上げた。考える間もなく、階段を駆け上る。鍵を回すことさえももどかしくドアを開けると、香ばしい匂いがした。

「どうした?郁」
キッチンに顔を覗かせると郁は恐る恐る振り向いた。堂上の顔を見て泣きそうな顔になる。
「……また失敗しちゃった……」
郁の前にはからあげを作ろうとしたのだろう、一口大の肉がいくつか転がっている。堂上は郁の隣に立って、その中のひとつを摘んで口に放り込んだ。
「ん、悪くない」
「でも……、衣ははげちゃってるし、ところどころ焦げてるし……」
下を向いて小さく呟く。
「養ってもらってるのに、料理のひとつもできないなんて……」
そのまま郁は涙をぽつりと落とした。
その様子に堂上は苦笑する。後から後から零れ落ちる涙を拭ってやりながらその顔を上げさせるが、郁は申し訳なさそうに眉を下げるばかりだ。
「あのな、お前が学生なのを承知でどうしても結婚したいって言ったのは俺だろ?」
「でも……」
納得いかない様子の郁に堂上は拗ねてみせた。
「それより大事なことを忘れてないか。約束、だろ?」
あ、そっか。郁はバツの悪そうな顔をする。
「おかえりなさい、篤さん」
郁は堂上の頬にそっとキスをする。これは妻として堂上と最初に交わした約束だ。
「ただいま、郁」
堂上は微笑んで郁の唇に触れるだけのキスを落とした。



まだ揚げていなかった肉は結局堂上が仕上げることになった。衣もはがれず、揚げ具合もちょうどいい。郁は先ほどのことなど忘れたかのように、ニコニコしながらそのから揚げを頬張った。
「現金だな」
堂上が冷やかすと郁はぷうっと頬を膨らませる。
「だってだって、篤さんが作ってくれたんだもん。篤さんが作ってくれるものは特別だしすごくおいしいんだもん。大事に食べなきゃ」
「お前が作るものも俺にとっては特別だし美味いぞ?」
堂上は郁が揚げた失敗作のから揚げを箸で持ち上げて見せる。
「もうっ!そんなこと言って甘やかさないで下さいっ!」
軽く堂上を睨む郁を見て、堂上は目を細めた。こんな何気ない日常が愛しい。



二人で皿を洗い、今日のできごとを報告しあい、順番に風呂に入り、ソファに並んでテレビを見る。そうしているだけで、夜はあっという間に更ける。気付けばもう就寝の時間だ。
「おやすみなさい」
「おやすみ、郁」
灯りを消してから、二人は小さくキスをする。
「篤さん、大好き」
堂上の頬に擦り寄る郁に俺もだと返事をしながら、堂上は郁の頭をやさしく撫でた。

 

 

 

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(from 20120827)