＋　おくさまは18歳　5　＋　　パラレルSS/にゃみさまのターン

「へえ、図書基地に住んでるんだ」
そう言うのは大学の司書講座で友人になった柴崎だ。
「ご両親が図書隊員なの？」
「あ、あの両親じゃなくてね……」
どうせ嘘をつかなくてはいけないのなら開き直ってしまえばいいのに、郁はしどろもどろになって説明する。
「へえ、お兄さんがねえ。兄弟でも官舎に住ませてくれることあるんだ」
「あ、うん。ちょっと特殊な事情があってね」
これはあながち嘘ではない。
「そうなんだ。詳しくは聞かないけど」
柴崎が追及の手をあっさり引っ込めて郁は安堵する。
「その、お兄さんは業務部か？防衛部か？」
聞いてきたのは同じく新しく友人になった手塚だ。弱みでも握られているのか、いつも柴崎に付き従っている 。
「ああ、部署は特殊部隊なんだ」
そう口にすると少し誇らしい。表立っては言えないが、あたしの旦那様はすごく素敵な人なんだからと内心で胸を張る。
「へえ、すごいじゃない。あんたのお兄さんとは思えないわねえー」
柴崎が感心した声を出した。手塚も少し驚いた様子だ。
「ねえ、そのうち会わせてよ。話聞いてみたいわ」
柴崎の言葉に郁はあいまいに頷いた。柴崎の前で堂上と兄弟のふりをするのか。それは少し郁には荷が重い。柴崎は聡くて察しもいいのだから。



講座が終わってから三人は書店に立ち寄った。講座に必要な書籍を買うためだ。
目的の本を手に入れてから、それぞれが好きな本を見て回る。郁も楽しみにしていた新刊を手に入れた。支払いを済ませて、一人ほくほくとした気分になる。この本は堂上も読みたいと言っていた。
先に読んでもらおうか。二人とも読んだら感想を話し合えるな。同じ本を共有で読めるなんて、なんだか夫婦になった実感が湧く。
用が終わったので柴崎を探すことにした。確か雑誌コーナーにいると言っていたのだ。
「柴崎ー」
立ち読みをする後姿を認めて声をかけると、柴崎は顔を上げた。行こうと言おうとして、柴崎が手にしている雑誌の中身が目に入る。
「し、柴崎、何読んでんの!?」
郁は素っ頓狂な声を出した。柴崎はああと顔色ひとつ変えない。
「セックス特集よ。いつもすごく売れてるって言うんだから、いちおうチェックしとかないとね」
「だ、だからってそんなの立ち読みするなんて……！」
「あら、みんないずれすることよ、恥ずかしがる必要ないじゃない？あんただって彼氏ができて数ヶ月もしたら経験するって」
「それはそうかも知れないけど……」
言いかけて郁ははっとした。郁が堂上と付き合い始めてから半年あまり。しかも結婚までしている。
でもあたしたち、こういうことしたことないよね？それっておかしい？
驚いたような顔をしている郁を見て、柴崎は「あんたにはまだ早いか」と呟いた。





司書講座があった日は堂上に復習に付き合ってもらうことになっている。
家事などに関しては郁にとても甘い堂上だが、勉強となると話は違う。
「アホか、貴様は！」
拳骨を落とされることもしばしばだ。
知り合ってからというものそんな風に怒鳴られたことなどなかったので最初は驚いた。でも堂上がやさしい面だけではなくてこんな激しい面も見せてくれることが今の郁にはうれしい。
こういう人だから書店で良化隊員から守ってくれたんだよね。そう思って郁はうふふと笑う。
「なんだ、急に」
堂上が怪訝な顔で聞いた。
「あのね、初めて会った時のこと思い出したんですよ。助けてくれたのが篤さんで良かったなって。じゃなきゃ今こうしていられなかったんもん」
「……そうだな」
呟いて堂上は郁から目をそらす。あれ？これは照れてるのかな？少しづつそういうことがわかるようになってきた。
不器用な表情が愛しい。
「大好き」
郁は隣に座る堂上に手を伸ばして、その背中を抱きしめる。
「ああ、俺もだ」
堂上もそっと郁を抱き寄せて唇を合わせる。

ああ、あたし幸せだ。

堂上の体は温かくてたくましい。心地良くて身を委ねていると、唐突に昼間の出来事を思い出した。
あんただって彼氏ができて数ヶ月もしたら経験するって。
当然のように繰り出された柴崎の言葉。
「ねえ、篤さん？」
唇を離すと同時に郁は声に出した。
「ん、どうした？」
堂上が郁の瞳をやさしく覗き込む。
「あの、えっと……」
切り出してみたものの、こんなことどう言っていいかわからない。言い淀んでいるうちに、郁はもう一つの懸案を思い出した。
「……司書講座の友達が篤さんに会いたいって言ってるんだけど、館内業務の日、行ってもいいかな？」
「兄として、だよな」
堂上は苦笑した。
「そう、兄として、なんだけどね」
郁も気がかりを振り払いたくてエヘヘと笑った。
堂上はその表情に少し引っかかるものを覚えたが、友人の前で嘘をつくのが嫌なのだろうなと結論づけて郁の頭をそっと撫でた。





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(from 20120910)